21話 奴の切り札

「どぼぐはっ!!」


 私の氣功弾を食らったパスアルは、大部屋の奥の壁まで吹っ飛んで。強かに背中を打ったようだ。口からは大量の吐血。内臓へのダメージは甚大だろう。


「お……おのれぇ!! 貴様、この美しい私の身体をここまで破壊するとは!」


 右腕は粉砕骨折したらしく、肩からだらりと垂れている。

 だが、左手には。

 何やら黒い宝玉を握っていて、それを強く握りしめている。


「もはや許さぬ!! 追放された魔王であるのならば、大人しく惨めな生活を送って居ればよいものを!! この屍鬼魔族軍団参謀の私に楯突くとは! コイツを使って始末してやる!!」


 パスアルはそういうと、黒い宝玉を床にたたきつけて砕いた。

 すると、そこから。

 肉の塊が噴出して、形を取ってゆく!


「ファハハハハ!! スプリガンゾンビだ! この王墳墓に守護者像として飾られていた巨人スプリガンの死体を! わが素晴らしき屍術しじゅつによって、ゾンビとして蘇らせたのだ!! くたばれイルディアナ!! 貴様が魔王の座にあったころから、貴様の事は気に食わなかったのだよ!!」


 パスアルはそう言い放った後に、転移の術で姿を消した。残ったのは、私たち四人と、巨人のゾンビ、スプリガンゾンビである。


「……あいつ、そんなに私のことを恨んでいたのか……。全く眼中になかったぞ」


 私は思わず呟いてしまった。


「ディアナさん! あの巨人、どうするの?!」


 テュトが私に聞いてくる。


「どうするも何も。叩き殺すに決まっている。あんな化け物がもし王墳墓の外に出るようなことがあっては、災いが広がるからな」


 私がそう答えると、パンネ嬢が聞いて来た。


「あれからは、アンデッドの気配を感じますが……。解呪は効くのでしょうか?」

「一発で昇天というワケにはいかなかろうが、ダメージを刻むことはできる。パンネ嬢、君は、回復をしながら奴に解呪を叩き込んでくれ」

「はい、分かりました!」


 次はマーフ嬢。眼鏡をクイっとやって尋ねてくる。


「攻撃は、ホーリーウィップでよろしいですか?」

「ああ、十分に効く。存分に叩き込んでくれ」

「わっかりました!! お顔が治せるまで、あと少し! アイツが私にとってのラスボスです!!」


 さて、四人で戦闘態勢に入る。私は、炎の両手剣を魔法で作り出して構え、戦闘態勢は整った。


「行くぞ!」

「よっし、行けるよ!」

「あのような哀れな存在は。あってはなりませぬ」

「綺麗なお肌を取り戻すんだからっ!!」


 皆が思いの丈を吐いて、戦闘開始!!


「わあっ!!」


 テュトが、スプリガンゾンビの鉄拳を食らった! 辛うじて盾で防いだものの、吹っ飛んで後にごろごろと転がる。


「ホーリーウィップ!! アンデッドの体なんだから、溶けるでしょっ!!」


 マーフ嬢がテュトを殴ったスプリガンゾンビの腕を鞭でぐるぐる巻きにする。しかし。


「ヴァファッ!!」


 確かに表面は溶けたのだが、丸太並みに太いスプリガンゾンビの腕を溶かし切るとこまでは行かず、振り回されたその腕に引っ張られて、鞭ごと壁にたたきつけられた。


「『解呪』!!」

「ヴェアアアアアアア!!」


 パンネ嬢の解呪は流石に効くらしい。スプリガンゾンビは大いに苦しむ。だが、それでも即成仏とはいかない。


「……まあ。まだ、保護者の出番か。いくぞ、この巨人ゾンビめ!!」


 私は炎魔法の両手剣の温度を白熱するまで撥ね上げる。そして長く伸ばして。


「『瞬斬』!!」


 居合斬りを放って、スプリガンゾンビを両断した。

 すると、切り口から。屍操しそうの石が転がり出て。

 スプリガンゾンビは活動を停止した。

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