第55話 高校野球を蹂躙した勇者パーティは、それぞれの明日に向かい旅立つ

 試合終了後。




 俺達くまかど高校野球部は、マスコミに囲まれた。


 嵐のように、カメラのフラッシュがかれてまぶしい。

 県大会でも、こんなにマスコミって集まってくるんだな。


 特にインタビュー攻勢にあったのは俺だ。

 173km/hなんて投げちまったからな。


 ……この球速、人類としてギリギリ大丈夫だよな?

 異常生物として変な機関が捕まえに来て、人体実験されたり解剖されたりしないよな?




 「プロになったら、どの球団に入りたい?」なんて質問をしてきた記者もいた。


 俺はまだ、1年生だぜ?

 ドラフトにかかるとしても、2年先だ。

 そもそもプロ志望じゃないし。


 「大学行くんで、プロは考えていません」と答えたら、記者全員からすごく残念そうな顔をされた。




 俺と同じぐらい、注目を浴びていたのがゆうだ。


 なんせ元プロ野球選手の娘が、高校野球の監督として甲子園の土を踏むんだからな。

 話題性抜群なニュースだろう。

 学生監督だし、美少女だし。


 優子はもう、涙を流してはいなかった。

 堂々とした態度で、インタビューに受け答えしている。




 インタビューを受ける俺らの元に、ふかてっしんさんと魔神サキがやってきた。


 サキは鉄心さんの腰に巻き付き、泣きじゃくっている。




「すまぬ~! 鉄心! われがもっと上手く、指揮を取っていれば……。甲子園に連れて行ってやれなくて、すまぬ~!」




 こいつ、意外といい監督なのかもな。


 そんなサキの背中を、鉄心さんはポンポンと叩きなだめていた。




「鉄心さん……」


 とりあえず名前を呼んでみたものの、なんと声を掛ければいいのかわからない。




 戸惑っていると、鉄心さんは無言で手を差し出してきた。


 左手だ。


 敵意があるとか、そういうのじゃない。


 俺達は、左投手同士だからな。

 投げ手で握手したいということなんだろう。


 ガッチリと握りしめてきた鉄心さんの手は、火傷しそうなほどに熱かった。




 ――俺はこの人の本質を、誤解していたんじゃないだろうか?


 クールだとか機械みたいだとか思っていたけど、内面はものすごく熱い人なんじゃないだろうか?


 見つめてくる瞳の奥には、炎が揺らめいているようにも感じる。




 握手が済んだあと、鉄心さんは1冊の冊子を渡してきた。


 無表情のままグッと親指を立てて、そのまま去ってゆく。


 ……とうとうひと言も喋らなかったな、あの人。




しのぶ。鉄心さんは、何を渡してきたの?」


「優子、もうインタビューは終わったのか……。何かの案内みたいだけど……。あっ、これって……」


「へえ。高校卒業したら、ここに来いってこと? 面白そうじゃない。私も一緒に行こうかしら? 忍や鉄心さんと、同じチームにね」


 ここに入れるって、鉄心さんは凄いな。


 俺は……どうしようかな?

 家から遠いし。


 まあ、すぐに決めなくてもいいか。

 高校卒業まで、2年あるからな。




 いま考えなきゃいけないのは――




 甲子園に行けるってことだ!


 夢の舞台に!






○●○●○●○●○●○●○●○●○






 その夏。


 俺達は甲子園に行き、優勝した。

 全国制覇だ。

 日本一だ。




 そんでもってそこから春夏合わせて、甲子園を5連覇した。




 俺、けんせいがわの3人は、2年と3年の時にU-18日本代表にも選ばれた。


 魔神サキによるスキルやレベルの封印が完全に解かれていたから、世界の強豪達相手にも負けなかった。


 チームメイトに、すめらぎおうも居たしな。




 憲正は、1年夏の甲子園が終わったら異世界に行くんじゃなかったのかって?


 サキの力で、異世界アラミレスと地球を自由に往復できるようになったんだ。


 県大会の決勝で負けたサキは、呪法の効果で本当に優子の使い魔になってしまった。


 魔神を使役する聖女、爆誕だ。


 おかげでプリメーラ姫は、無事にウィリアム王国へと帰れた。


 俺達が向こうで3年間過ごしたのに地球で10時間しか経っていなかったように、経過時間のズレが心配だったけど、あれは【勇者召喚魔法】だから起こった特別な時間のズレだったらしい。


 というわけで憲正は、高校卒業まで地球にいることになった。


 ただ定期的に異世界へ行って、国王になるための教育を受けている。


 高校生と野球部員と国王見習いの三重生活。

 あいつも大変だな。




 プリメーラ姫は気軽に地球へとやってきては、憲正の試合を観戦したりしている。


 その度に、サキが送り迎えをさせられていた。


 あっという間に2つの世界を行き来する、魔神の力はとんでもないな。


 ちなみにサキは面倒くさがりなので、送り迎えを依頼すると渋る。


 優子の使い魔のくせに渋る。


「スタバのフラペチーノ、おごってあげるから」


 と優子が頼むと、


「仕方ないのぅ。ベンティサイズだぞ」


 とか言いながら、送り迎えをしてくれる。


 いいように操縦されているな、あの魔神。




 憲正が高校卒業する頃には、プリメーラ姫のお腹が大きくなっていた。


 忙しくても、やることはやっていたみたいだ。

 けしからん。




 憲正の奴は進路希望調査に「国王」と書いて、進路指導の先生を絶句させていた。


 まあ、本当のことだから仕方ない。


 結局3年間高校野球を堪能してから、憲正は異世界へと引っ越した。


 「今日からちょっと、隣町に住むね」ぐらいの気楽さだった。

 実際すぐに、行き来できるし。


 渡航料金は、スタバのフラペチーノ最大サイズぶんだ。




 高校卒業後は、異世界へと旅立った憲正。


 プロ野球に進んだ奴もいる。

 五里川原と皇だ。


 1年目から、2人は凄まじい成績を上げた。


 特に皇は、高校時代に1度も甲子園の土を踏めなかったうっぷんを晴らすかのように活躍した。


 すまんな。

 俺達熊門が、3年間ずっとくに学院の甲子園出場を阻んでて。


 1年の春季大会で優子が言った、


「アンタは甲子園の土を踏めない。これから3年の夏まで、県代表はずっと熊門よ。春夏合わせて、5回ともね」


 が、現実になってしまった。


 まあ火の国学院は、俺達じゃなくせいがくしゃにやられてしまった年もある。


 鉄心さん達の代が卒業しても、当時1、2年生だった野球魔人達が何人か残ってたからな。




 五里川原の奴は、プロ入りしてすぐに結婚した。


 「あいつ、女に興味あったんだな~」なんて思っていたら、相手がとよやまかん先生と聞いて飲んでいたスポーツドリンクを噴き出した。






 俺や優子は、高校卒業後にどうしたかって?


 予定通り、大学に進学したさ。

 ちゃんと教育学部のある大学だ。

 俺の目標は、教師になって学生野球の指導者になることなんだからな。


 

 合格するのが、大変な大学だったんだけど……。




 東大っていうね。





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