演目開示

 演目開示…………


 語り部の歴史は至上の娯楽だ。誰も知らないことを知り、知りたくないことも知ってしまう、それが語り部の歴史、光と闇を持つ禁断の果実。その語り部の歴史を喰ってはまだ足りないと空腹を訴え、大樹から実が無くなるまで喰う。そうして満たされた時、このセカイを知り、このセカイだけではないことを知った。


 知り尽くしたはずだったのに、語り部の歴史には空白があると知ってしまった――それを知ってしまったが故に、ぼくたちは【原罪シード】と【贖罪ソイル】を持って生まれた。


〝原罪、それ即ち力の原種子。贖罪、それ即ちこころの土地。ふたつの力はひとつ、ひとつのこころは数知れず。種は次代へと受け継がれるもの、渡りに渡る血の流れ、川上川下と上り下りの種の記憶、漂い出会うふたつの力はひとつの愛の結晶なり。土地は広くあるべきもの、どこまでも広く、空模様も地平模様も色とりどり、どこまでも明るくどこまでも暗く、光も闇もあるくもりなき土地こそ己を映す鏡なり〟


 と、そんな風に原罪も贖罪も子々孫々と語り継いでいた。己はふたつでひとつ、欠けなければ善とし欠ければ悪とする、生きるも死ぬも良し悪し流転なる無常の天上天下。しかし今、原罪は悪いものとして語り継がれている。原罪だけでなく贖罪も消し去ろうと足掻いている。


 消し去ろうとしたところで人類の原罪は消せない。なぜって? 女性のXとXや男性のXとYの色を見たり音を聴いたり肌で感じたりしたら、原罪は人間を構成するための最も重要な部分を司っていると分かったから。血液中に原子レベルで含まれていたり人間の細胞セルのひとつひとつに刻まれていたりするから、原罪を分割する行為や原罪をカラダから切り離す行為は人間を死に至らしめる行為にあたる。つまりは死に至る病が原罪だった、その死に至る病を恐れた人間族リリンは華族から力を与えられ、原罪の深淵を覗いた。人間族が原罪の深淵を覗くことでセカイが少し変わり、そして運命は安定の一途をたどることとなった。


 それがかつての植生代新創世紀――聖戦の始まりの時代だ。


 そして今の植生代耕世紀の現世界エデンといえば、人間たちの原罪を消そうと足掻き、その実、原罪を使ってセカイを維持するしか方法がない。耕世紀今の時代は原罪に支配された時代であり、原罪が最も必要とされるセカイだ。


 それもこれも聖戦による土地の穢れが影響している――大罪時代ザ・ブルートケイオス、聖戦の時代の負の遺産が現世界の土地を穢しているのだ。


 と、話が逸れてしまうので、この舞台で聖戦の話をするのは止しておきます。


 そう、現代は再生時代ザ・レナトゥス。このセカイに点在する五本の大樹より恩恵を得て、現世界の復興を目指す時代です。その復興のために、ぼくたちヒトが授かった力――原罪シードを使わなくてはならないという話なのです。


 原罪ばかり話していて申し訳ありませんが、ここでは贖罪のお話をすると混乱を招いてしまいますので、贖罪についてのお話も止しておきます。


 さて、人類に宿る原罪。己の裡の原罪を無理やり発芽させた現生人類、そして生きているかも死んでいるかも分からない原罪を持つ開花人類。新たな人類となった現生人類も古の人類と呼ばれる開花人類も〝罪の力を使い人々の暮らしを守る〟、その選択しか許されない。


 そこでぼくは迷っていた。ひとつだけの運命に抗っていた。


「ぼくは正真正銘<ぼく>で間違いないから、血の呪いからも日の呪いからも逃れられない」


「わたしもあなたと同じだよ。オシンメイを取り戻すことが唯一の救いなの」


 この会話はここより前の現世界かここより後のセカイか、はたまた現世界でもセカイでもないか、それは誰にも分からないことですけれど、物の語りは日種より始まる。


 ――さあ、今回語るは原書の物語ではなく、原書を継いだ次代の始まりの物語。なになに安心してください、ここ現世界より派生する時系列に順序はありません、しかし語りの欠片は組み立てられるように作られておりますので、時盗り年取り日を数えて、カラダを育みこころを育み己の力で組み立ててみてください。


 さてさて、では謎多きセカイをひとつひとつ語って参りましょう。

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