亡國点睛アストラル

片山勇紀

1st PHASE:E.C.D.T.

 ここ東京はいま、咲き誇る笑顔の曇天によって緊張していた。

「三、二、一……ディシプリン・アーマー起動」「リスパドール異常なし」

 深夜の永田町を二台のジープが疾駆していた。目的地は首相公邸。カーブを曲がると検問所があったが、薫たち、ナトゥーラはそれを強行突破した。

「貴様たち、何をしている!」検問者が怒号を上げる。

『京』薫がエブリデイのデバイス越しに訊いた。『セキュリティはすべて掌握している。アイハブコントロール』

「なぜだ、警報が鳴らん!」検問者は困惑している。

 ジープが入り口に着くと、ディシプリン・アーマーに身を包んだ薫たち十数名がぞろぞろと流れこんだ。途端にシャッターが開く。すべてのセキュリティ、情報技術は京が掌握している。見張りの男ーー同じくディシプリン・アーマーを装着しているーーが二人、こちらに向かってきた。「なんだ貴様らは!」銃ではディシプリン・アーマーを破壊することはできない。見張りの男たちは大型メイスに換装しそれを振り上げる。薫はそれを躱し、大剣で相手を両断した。〈ディシプリン・アーマー〉は、過去の戦闘記録を蓄積し、オートで最適な動作をフィードバックする鎧である。

「くそ、なぜ通信が効かない!」戸惑う他方の男にはキリトが向かった。ギン、ギン! 数度の攻防の後、キリトが優った。

「行くぞ!」薫が叫ぶ。ナトゥーラの面々は首相公邸に侵入した。事前に図面は把握している。

「な、なんだ、お前たちは!」そこには内閣総理大臣にしてグラーチア教教祖がいた。

 薫は大剣をそっと翳し「われわれはナトゥーラ。グラーチア教者を駆逐し、立憲主義の名の下正義を為す組織だ」

「何を言う! われわれゲルフ党は民主主義によって国民に選ばれた為政者だ」

「民主的プロセスによっても覆すことができない硬性の理念を正義と言う」薫は大剣を構える。

「バカな! 貴様らはテロリストだ!」

「ジョン・ロックによればわれわれの行動は抵抗権と言われる。聖戦と言ってもいい」

「な……」「われわれが正義だ」構えた大剣を振り下ろし、内閣総理大臣の首が飛んだ。


 翌日の昼。ナトゥーラが潜伏する東京、成瀬のアジトにて。スクリーンには国会中継が流れている。

「準備はできているな?」と薫。「もちろんだ」とアイジが受ける。

国会では、首相暗殺について与野党が舌戦を繰り広げている。マスコミも号外を飛ばし、世間は騒がしい。

「あと五、四、三……」椎名がカウントを始めた。ゼロ。

 国会議事堂が爆発した。「よし!」「革命の狼煙だ!」ナトゥーラの面々が活気付く。これにより、閣僚を含む国会議員はみな爆死したはずだ。

「ははははははは! なにがポピュリズムだ! 民主主義は膿を出す必要がある! 憲法をちゃんと読むことだな!」キリトは哄笑した。「その通りだ」薫が受ける。

 かくしてナトゥーラによる革命が始まった。首相暗殺、国会爆破は序章にすぎない。しかしこれでーー「歴史が変わる……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る