第十九話 剣の道(中編)

 ――これまでのあらすじ――

 帝国暦18454685468451654984564968594984568561651616548年、常勝将軍と呼ばれたハインリッヒ一等兵が十六度目の戦死を経て蘇った。

 その知らせを受けた勇者ブルンブルンち○こに神の啓示が直撃して死亡。

 残された棒は復讐を玉にこめて大地に立ち、酒池肉林、淫乱無礼な物体を矢継ぎ早に繰り出して(検閲削除)


 それで全然関係ない話だが、啓太とジョージは剣の免許を取るための仮免試験を受けて合格、これより実技試験に挑む。



 ――本編――

 町の郊外、うっそうと茂る木々が細切れの影を地面に映す。

 啓太とジョージの二人は、鞘に収まった剣を腰に下げて歩く。

 二人は実技試験を受けるため町の外にある林に来ていた。


「二人とも仮免試験合格おめでとう」


 二人の前には、まぶしい笑顔と輝く白い歯が閃光のように輝くガレットが立っている。

 手をかざして光をさえぎる二人。


「それじゃあ、さっそく実技試験だ」

「応! 目ざめよ我が魔剣フラガラッハよ!」


 ジョージがいきなり剣を抜いてかっこいいポーズをとったかと思うと走り出した。


「ケイタ君は抜かないのかい?」

「抜いていいんですか」


 ガレットは少し困ったような表情をして啓太を見た。


「言っただろう? 剣を抜くのは危険な時、戦う時だって」


 ガレットの目から温度が失われていくように見えた。

 啓太の背に薄ら寒いものが伝わってくる。


「ここは、危険な所だよ」

「魔人切り!」


 ジョージが近くの木に切りかかる。

 力いっぱい振り回された剣はくいこんで抜けなくなっていた。


「ケイタ君とジョージ君を足して割った位がちょうどいいんだけどね」


 そんな事を呟きながら、ガレットは木から剣を抜こうと悪戦苦闘しているジョージに近づく。


「ジョージ君、少し離れてて」


 腰の剣をゆっくりと抜いたガレットは、人の話をまったく聞いていないジョージの横から剣を横なぎにふるった。

 木の幹にガレットの剣がぶつかり、ジョージの剣より深くくいこむ。

 しっかりと固定された剣は微動だにせず、ガレットは木から剣を抜こうと悪戦苦闘。

 ジョージも引き続き悪戦苦闘。


「さあ、次はケイタ君の番だよ!」

「何が!?」


 汗を光らせながら剣を引っこ抜こうとしているガレットに、啓太の鋭い指摘が入る。


「かもしれない抜剣をして、僕らを助けるんだ」

「はあ」


 啓太が腰の剣をゆっくりと引き抜く。

 金属の鈍い輝きとずっしりとした重量が柄から伝わってくる。


「それで、どうすれば」

「この木を切り倒すんだ!」

「斧使いましょう」

「そうだね!」




(しばらくお待ちください)




 切り倒された木の前で、三人が斧を持って立っている。

 ガレットが流れる汗をぬぐった。


「ふう、斧の使い方わかったかな?」

「斧殺法の完成だ……」

「剣は?」


 啓太の指摘に、ガレットは白い歯をきらりと輝かせて笑顔を見せた。


「そう、剣の試験だったね! でも斧と剣には共通点があるんだ」


 斧を切り株において腰の剣を抜いたガレットが啓太とジョージに向かって語りかける。

 剣が日の光を反射して金属の輝きをみせた。


「それは……何だと思う?」

「どっちも斬属性だ!」

「うーん、惜しい! ケイタ君は?」

「えーと、どっちも鉄?」

「残念、正解はボニフィルド曲線における交点の数が極小無限と等しいことなんだ」

「なるほど、試験始めましょう」

「そうだね!」


 啓太はゆがみ始めた世界を強引に引きずって元に戻す。


「それじゃあ普通剣実技試験を始めるよ。あれを見て」


 ガレットが剣の先で指した先には、木々の間をぬうように道があった。

 道の脇には茂みがあり、何が飛び出してくるか分からない、そんな雰囲気をかもし出していた。


「行くぜ! 相棒!」


 剣を抜いてかっこよく飛び出したジョージは茂みから飛び出したイノシシによく似た怪物にはねられて宙を舞う。

 ガレットは視界の外へと飛んでいくジョージを一顧だにせず道の先を見つめながら白い歯をきらめかせた。


「この道の先にある神剣を抜く事……それが実技試験合格の条件さ」


 啓太は木々に隠れた道の先を見る。たやすく想像できる困難な道のりが、血まみれで遠くに転がる実例が剣の柄を握る啓太の手に力を入れさせる。


『さあ勇者よ、神の加護の元、それなりの結果をだすのです』


 妖精がふわふわと飛びながらふんわりとしたことを言った。


「じゃあ加護ちょうだい」

『気合です。根性です。できるまでやるのです』

「ブラック加護だね。出来るだけすぐに滅びたらいいと思うよ」


 ばっさりと加護を切り捨てた啓太は目の前の道を眺める。

 何も考えずに進んでは血だるまでびっくりするような飛距離を披露して着地、生まれたての小鹿のようにプルプル震えながら立ち上がろうとしているジョージの二の舞となるだろう。

 頼れるのは己の知恵と勇気のみ。

 啓太の孤独な戦いが今、始まる。

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