無理矢理救世主伝説

第一話 旅立ち

「啓太くん……私、あなたの、ことが」


 よく晴れた空の下、どこか冷たさを感じさせる風の吹く校舎の屋上。

 目の前にいる少女は頬を赤らめながら、途切れ途切れに言葉を発する。

 戸惑いながら見ていると、伏せていた目をまっすぐにこちらに向けた。

 控え目な唇が動き、押し出されるように言葉が。


「あなたのことが、す」

『勇者よ目ざめるのです』

「んあっ!」


 突然頭の中に大きな声が響く。

 飛び起きた啓太は、寝ぐせのついた髪の下にある寝ぼけた眼をこすり、周りをきょろきょろとみまわした。


「あれ……山本さんは?」

『山本さんは夢の中です』

「んああっ!」


 突然の声に本日二度目の悲鳴を上げてしまう啓太。


「なっ、誰だ! というかここどこだ!」


 ようやく脳が覚醒した啓太の目に入ってきたのは奇妙な空間。

 周囲全てが夜空のように黒く、ところどころに星のような明かりがともる。

 ふと足元を見るとそこも星空。


「うおおお! 落ち……て……ない?」


 宇宙空間を思わせる中で、啓太はパジャマ姿で宙に浮いていた。


『勇者啓太よ……よくぞここまで来ました』

「いや来てない。というか起きたらここに居たんだけど」


 しばし宇宙に静寂が満ちる。


『そうです、私が呼んだのでした』

「……ヤバイな。ところで誰?」

『私は、そうですね。あなたの世界の言葉で言うなら……ゴミでしょうか』

「ゴミ」

『間違えました。神です』

「どういう間違い。あとここはどこ」

『ここは、あなたの世界の言葉で言うなら……ゴミですね』

「またゴミ」

『間違えました。ここは始まりにして終わり、一にして全、アルファでありオメガでもある――すべての選択されなかった世界が眠る場所――ゴミ捨て場です』

「結局ゴミ」

『勇者ゴミよ』

「巻き込まないで」

『あなたはこれから一つの世界を救ってもらいます』

「え、聞いてない」

『言ってません』

「開き直らないで」


 決意をこめた目で星空を見上げる啓太。いつもは怠惰な光をたたえる目の先にある星が一際強く輝きだした。


「いや決意してないし」

『勇者よ、あの光があなたの担当の世界です』

「担当とか言っちゃった」


 啓太はうなずくと、ゆっくりと光に向かって上昇しだした。


「勝手に話進めるのやめて」

『さあ、旅立つのです。素敵な冒険があなたを待っているでしょう』


 親指を立てて最高の笑顔を浮かべた啓太は、光の中に吸い込まれていった。

 今、勇者は異世界へと旅立つ……啓太の不思議な冒険が始まる!




「帰りたいんだけど」

『世界を救わないと帰さない』

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