男子が減り続ける世界の話

侑李

はじまり編

10歳の誕生日、姉妹への告白





 2032年 5月6日



 今日はとある平行世界、熊本県熊本市の東部に暮らす葛西千陽少年10歳の誕生日。家族で祝った後、プロ野球選手としてすっかり有名人になって、千陽が小さい頃に結婚して家を出た一番上の姉の陽葵は今日は帰ってきていないが、現在は大学生で家を出ている芳美は帰ってきて、その下の現在高校生の璃華、そして千陽にとっては唯一の下の子、5つ離れた妹の恵梨の姉妹3人はなぜか千陽の部屋に集まる。



「よしねえ、りかねえ、恵梨。なんでこぎゃん狭いとこに・・・」



「まあきょうだいだけでお祝いしたいし」



「いやいやよしねえ、ひまねえなおらんてから」



「まああん人もちょくちょく帰ってくっけんよかたい」



「それに璃華ねえ、どこ撫でよっと?」



「弟の成長ば観察しよるだけよ」



「恵梨が真似するけんやめんね」



「えー、俺もにーにのそこ触りたい」



「やめなさい。ったく、皆僕ももう10歳なんだけんあんまベタベタされると恥ずかしいて言うか・・・」



 その先ゴニョニョと口ごもる千陽が「オスの顔」をするのを見逃さない姉妹。



「よしねえ璃華ねえたいへん!おっ達のにーにばたぶらかすおんなのおるごたっばん!(方言分からない方のためのだいぶ意訳:姉さん達てえへんだ!あっしらの姫をたぶらかすけしからん女がいるようですぜ)」



「「なんやぁ?!誰ね、お姉ちゃんに教えなっせ(教えろよ)ちーちゃん!!」」



「いやいや恵梨、そぎゃん(そんな)言葉どこで・・・ちゅうか別に僕はたぶらかされてません!僕が片思いしとっだけで・・・」



「「なんて?今なんて言うた?お姉ちゃんの聞き間違い?」」



「だけん僕の片思いで・・・ってあれ、よしねえ?璃華ねえ?恵梨、2人とも固まったばってんどぎゃんしたっだろ」



「にーにに好きな女ができたショックよ。おれもばってん・・・で、誰?同じ学校?同じクラス?そいつのかぞくこうせいは?」



「家族とか会った事ないけん分からんばってん、同じクラスで、名前は森咲里さん・・・」



 恵梨が聞き出した情報を聞いて再び動き出す姉達。



「私は大学あるけんあればってん璃華、恵梨。2人ともそのメアリーとか言う子の監視頼むぞ」



「なんいいよっとねよしねえ?!それにメアリーじゃなくてえみりさん!璃華ねえも恵梨もよーし!じゃなかたん!あんた達が変な事して僕が彼女に嫌われたらどぎゃんすっとね!」



「なーん、あんたこん前まで「よしねえのおむこしゃんなる♡」とか言いよったて」



「あらちーちゃん、璃華ねえちゃんにも言うたよねそれ」



「おっもにーにばおむこさんにしてやるて言うたたい」



「いやいや、よしねえ僕そぎゃんハートつけちゃ言うとらんし、璃華ねえも2人とも僕まだ幼稚園の頃だし!それに恵梨のそれは勝手に言いよるだけだろも」



「ばってんずっといっしょがいいもん。俺のにーにだもん」



「「ちょい待て恵梨、なん独り占めしようかしよっとや」」



「だってよしねえはとしがはなれすぎとるし、璃華ねえも小学生のにーににてえ出したらはんざいよ?だけん俺がもらいます」



「「お前〜!!」」



 自分を巡って喧嘩を始める姉妹にいたたまれず、部屋を出てリビングにいる父の元へこっそり向かう千陽。



「あー、また始まったかあん子達」



 姉妹が千陽の事で喧嘩するのはいつもの事で、またかと呆れる父、隼瀬。なお、彼もかつて姉に言い寄られていたりした経験があるので、息子の気持ちは痛いほど分かる。



「そっか、千陽好きな人できたんだ。それで芳美達な・・・あんたは姉ちゃん達にも恵梨にも邪魔されたくないわけね」



「うん・・・まあ付き合えるかは分からんけど」



「そんえみりちゃん?とは普段よう話したり一緒に遊んだりすると?」



「うん、ばってん彼女皆と仲良いけん僕もそん中の1人かなって感じで・・・家に誘おうか思いよるけど璃華ねえも恵梨も邪魔してきそうだし、何よりいきなり僕が家に呼んだりしたら尻軽とか思われそうで・・・」



「男子としちゃ難しいラインよねそこは。ばってん同じ年頃でん女の子はまだそぎゃん意識なかったりするし、今度の土曜日どん呼ぶたい。璃華姉ちゃんと恵梨にはママから釘刺してもらうけんが」



「わぁ、さすがパパ!ありがとう、誘ってみる!」



「うん、来てくれるとよかね」



 そして咲里は千陽の誘いを断らず、その週末がやってきた。









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