第4話 画家VSペンリッケ

 ロンドンから離れた山の中間地点に画家は住んでいるようだ。

 聞けば、これから会う画家は、地元では有名な画家らしい。

 1階建ての大きな家――否、アトリエか? ――の前まで着くと、タクシー代を払い、車を降りた。

 

 山のきれいな空気を深く吸いながら伸びをしてから、ペンリッケはその画家に会いに、玄関のドアの前に立ち、インターホンを鳴らした。

 出迎えてくれたのは、グレーの髪色で、背の高い老齢の男だった。

「いらっしゃい」

「お邪魔します」

 中へ入るよう言われたので、ペンリッケは画家の背中を追うようについて行く。

 が、廊下の途中で立ち止まる。

 今は誘拐事件も発生しているのだ、とにかく時間が無い。

 ペンリッケは画家を呼び止め、簡潔に聞いた。

「先にお電話でお伺いした時に仰っていたご友人2人は今日はどちらにいらっしゃるのか知りたいのですが、教えていただけないでしょうか?」

 ペンリッケは画家の話を聞きながら地図を広げて印を付けた。

今居る画家の家の位置と、教えられた2人組の居場所と、その距離を線で結びつけた。

 どうやら麓に居るらしい。



 おかしい。と、ペンリッケは思った。

 ロンドンからこんなに離れた場所まで誘拐して何をする気なんだろう? と。

 しかも、これからの行先はパン屋だ。

 キャサリンはこのパン屋に来たことがあるだろうか。――否、無いだろう。

 何故ならば、彼女は確かに言っていたのだ。

「見知らぬ男」だと。

 つまり、あの画家は嘘をついてるか、ボケが始まっているのかもしれない。

 ペンリッケはもう一度タクシーを呼び、画家の家に戻った。

「もう一度お聞きします」

「やはりわかってしまったか。ならば言おう。オズワルドとジェッケラルは山奥に居る。地図を貸してくれ」

 画家は地図に朱色の印を付けて、ペンリッケによこした。


 同じ頃、キャサリンはカチャリという音に目を覚ましたが、黒い目隠しをされ、椅子に体を縛り付けられて身動きがとれない。その上、辺りは真っ暗で、何も見えない。

 助けを求めようにも声が出せずにいる。

 喉が乾いているせいだろうか。否、今この状況にして、大声を出す勇気が出せないだけだろう。

 そう、キャサリンは思った。

 次に、キャサリンはこう思う。

 恐らく私は今、個室という小さな箱に入れられた状態で、あの見知らぬ男2人組はこれから私をどう殺そうか話し合っているのかもしれない。

 否、じゃなくて、現にそうなのだ。と。

 そこまで考えた時、またカチャリと音がした。

 照明もついた。

「お待たせしました、えーと、キャサリンさん」

「その声は、アルトミアさん?」

 間もなく目隠しが優しく外された。

 手首のロープが外された。

 声の主が彼女の足元を自由にさせてくれようとしている。

「苗字で呼ばれるのは好きじゃないんで、ペンリッケとお呼びください、キャサリンさん」

 間もなくキャサリンは椅子から完全に解放された。

 

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