未来の涙くんの絵の感想は、写実的。あるいは風景的。

 涙くんの絵は、すごく現実的で描写がうまい。(プロの画家さんが描いた絵みたい)……でも。


「魅力的じゃない?」と涙くんは言った。

「え?」未来は驚く。

 どうやら未来の感想は、未来が思っていた以上に、その顔に出てしまっていたようだった。

「ふふ。三上さんは正直な人だね」

 そう言って、涙くんは思わず顔を崩して、にっこりと笑った。

 それはすごく可愛らしい(本当に子供みたいな)笑顔だった。

 その笑顔を見て、思わず未来はまた、涙くんにどきっとした。


「あ、でも、すごく上手です。本当に、なんだかプロの人が描いた絵みたいだって思いました」

 慌てて未来はそういった。(その感想はもちろん、嘘ではない)


「ありがとう」涙くんは言う。

 それから二人は、すぐそばにある自動販売機でコーヒーを買って、それを飲みながらお互いの話をした。(その話によると、やっぱり涙くんは十六歳で、未来と同い年の高校生だった。美術の専門学校に通っている学生さんだ。将来はイラストレーターか、あるいは、画家志望らしい)


「川原くんなら、絶対に画家になれますよ」にっこりと笑って未来は言った。

「……うん。ありがとう」

 涙くんは言う。(でも、涙くんの表情はあまり嬉しそうな表情じゃなかった)


 その理由は、『絵が上手に描けなくなったから』、……らしい。(あんなに絵が上手なのに)


「絵が昔みたいに上手に描けないんだ。だからこうして、この場所でスケッチブックに絵を描いて、自分の絵を探している。この場所は僕の思い出の場所で、子供のころによくこうして、僕はこの場所で絵を描いていたんだ。だから、こうしてあのころみたいにこの場所で絵を描いていれば、あのころの自分の絵を見つけることができると思っていたんだけど、……なかなかうまくいかないんだ」

 そういって涙くんは雨降りの透明なドーム状の植物園の天井を見上げた。未来も同じように空を見る。そこには雨音の聞こえてこない、不思議な雨の降る真っ暗な空の風景があった。

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