第3話 結末は次の始まりである、月並みだけど

普段は全然飲み会に参加しない先輩が珍しく来てたので、話しかけたらものすごいヘビーな話を聞かされてしまった。

いや、確かに変なタイミングで異動してらしいとか、妙に人を寄せ付けない空気があるなー思ったけど納得である。

なんかあるんやろなあと思ってたけど、思ってたより100倍アレだった。

そらそうよ。

仕事は人一倍できるし、誰にでも優しいしイケメンだしで人気めちゃくちゃある割に人付き合いが悪いところがあった。

話しかけてもプライベート全然話さないし。

ちょっと力ない笑顔が優しくて、地味にアタックしてる子は多い。


かくいう私もそうである。

良くある話だけど、新卒で入った私の教育係で色々教えてもらううちにあっさり好きになってしまった。

けど、世の中の人の9割はそのくらいの気軽さで人を好きになると思う。

10年以上のアタックされるとか、漫画とかではよくあるが現実では正気の沙汰ではないと思う。

話を聞く限り、その幼馴染さんとやらには8割情2割恋くらいだったように感じる。

家族に対する愛情に似てる感情に近い気がする。

まあ、情が恋より下かって言われるとそれは違うんだけど。

先輩の人生の9割が思い出したくない過去になってしまっている。

それがどれだけしんどいのか本人にしかわからないだろう。


ただ、それを人に話せるようになったのは大きな一歩だと思う。

聞けば人に話すのは初めてだそうだ。

ドン引きさせてごめんって苦笑しておられる。

そらそうよ(2回目)

こんな話聞かされてドン引きしない奴はいないよ!

「でもまあ、一応カタがついたからね。切り替えないとね」

そういって先輩は寂しそうに笑った。

その顔を見た瞬間、私はものすごい怒りを感じた。

「いえ、切り替えなくていいんです!確かにそれはとてもつらい出来事だとおもいますけど、ひとつだけ間違いなく言えることがあります。」

私はしっかりと先輩の目を見ながら言い切った。

「いや、でも・・・」

「あなたはもっと怒っていいんです、泣いていいんです、悲しんでいいんです。」

先輩は目を丸くしている。

「大丈夫です。あなたの味方はここにいます。」

慣れてないからめちゃくちゃ恐る恐る抱きしめてあげた。















号泣である。

先輩がどうしようもなく泣いている。

大人の男の人がこんなに泣いてるの初めて見たわ!

大人の男ってこんな声で鳴くのね!(混乱)

やべえ!やりすぎた!

会社のみんながめっちゃ見てくる!でも先輩かわいい!(混乱)

先輩は小一時間泣いて、泣き疲れて寝てしまった。

赤ちゃんかな?

飲み会はそれでお開きになったのだが、寝ちゃった先輩の家を誰も知らない。

他の先輩にパスしようとしたがニヤニヤしながら「お前が面倒見てやれ、いつも面倒見てもらってるんだろ?」などとのたまう。ぐぬぬ。

仕方がないので駅前のビジネスホテルに放り込んでおいた。

私は付き合ってもない男を部屋に泊める脇の甘い女ではないのだ!


翌日先輩から平謝りされた。

それから先輩は徐々に明るくなった。

私との距離も多少近づいた。

多分だけど元々は社交的な所謂陽キャな気質だったんだろう。

割と陰のものたる私にはちょっとまぶしいが。

自分では卑下していたが、先輩は間違いなく主人公気質だ。

困っている人はほっとけない、誰にでも親身になるイケメンである。


仕事にも前より一層身が入るようで、うちの支社の成績もどんどん上がっていった。

まあ、そうなると結果は見えてる。

先輩が本社に呼ばれることになったのだ。

いや、元々海外出張に行くようなエリートさんだったからそらそうよな!

え?私?高卒のヒラですけど何か?


んで、本社に行くことが決定してあと一か月くらいで引っ越しかなって言うタイミングで先輩に飲まない?と誘われた。

このころの先輩は普通に飲み会にも参加していたけど、サシ飲みは珍しいなーと思いつつも奢ってくれるというのでノコノコついていった。

まあ、最後だろうし、酔わせてどうこうってのも多分ないと思ってたし。

………まあ、全く期待してないわけでもないし。

とりあえず下着はいいのつけていこう。












飲み始めてちょっと経って、場も温まってきたかなーってタイミングで先輩が真面目な顔をして言った。

「ちょっと・・・えーっと・・・うんその、なんだ?」

「ふわふわしすぎて何言ってるか全然わからないですね・・・」

「ほら、俺、本社に行くことになっただろ?」

「ですねえ、頑張ってくださいね。」

「はい。いや、違う。その、なんだ。」

「言いたいことははっきり言う!」

「はい、ごめんなさい・・・あのですね、差し当たってお願いというかなんというか・・・あるんですよ。」

「はい、なんでしょ。部屋の掃除とかごみの処分とかそういうのですか?」

「それも手伝ってほしいんだけど・・・ついてきてくれない?」

「どこに?」

「本社。」

「は?」



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あと2か3話くらいで終わりの予定です。

思った以上の人に読んでもらってうれしいです。

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