第27話 ピコとの会話


……


「…それじゃあ…シドさん、見ても大丈夫でしょうか…?」


「はい、いいですよ」


「あ、ありがとうございます!」


茶髪の青年 ピコは、そう言いながら、目を輝かせて、お辞儀をする。

モイカを怖がらせないように、ゆっくりと近づいていき、目の前までくると、静かにしゃがみこむ。


「…わぁ…!可愛いなぁ…」


ピコは、モイカの前にしゃがみながら、そう呟く。


モイカは今、リアの上から降りており、俺の足元の近くに立っている感じだな。

リアも、モイカがいる方とは逆の足元にいて、大人しくしてくれいる。


「もふもふもしてるし…、本当に可愛い」


ピコの呟き声にうんうんと頷く。


うん、わかるぞ…!

白と茶色のもふもふした毛に、短い足、そして可愛い鳴き声…。モイカは全てが可愛いからな。


「…えっと、シドさん。この子の名前ってなんって言うんですか?」


あっ…、確かに名前を言っていなかった。


「この子が女の子のモイカって言います。俺の頭の上にいるのが、男の子のハクで、逆の足にいるのが女の子のリアです」


「ぷいっ!」


「ピィー!」


「カウっ!」


うん、ちゃんと挨拶ができてえらい。


「モイカちゃんに、ハクくん、リアちゃんですか…!みんないい名前ですね!」


「ありがとうございます」


俺としても、三人の名前は、それぞれに合っていると思っていたから、そう言ってくれるのは嬉しい。


「えっと、ハクくんとリアちゃんも見ても大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。ハク、おいで」


「ピィー」


俺はそう言って、頭の上にいるハクを手のひらに乗せる。

そして、ピコが見やすいように、俺の胸の前まで、ハクののった手を持ってくる。


「わあ…。ハクくんも可愛い…。毛もふわふわで…」


目を輝かせながら、そう呟くピコ。


ハクも可愛いからなー…。白くてふわふわの毛に、つぶらな瞳、短くて小さい足も魅力的なんだよ。


ピコは、少し微笑みながら、少しの間、ハクを見る。


…モイカの時もそうだけど、こう言う反応見ると、相当動物が好きなんだろうなと何となく伝わってくるな。

見ている時の顔だったり、動きが、ちゃんと動物達のことを思ってやっていることがわかる。

もしかしたら、現実でもペットとかを飼っているかもしれないな。


俺も少し微笑んで、その様子を見守る。


「リアちゃんも可愛いなー…。毛ももふもふで、サラサラもしているし…」


リアも可愛いんだよな…。もふもふとサラサラを同時に味わうことができる毛に、愛しい顔、そして、まだ短い尻尾。どこも可愛い。


…あれ?俺、モイカ達への愛が強すぎないか…!

それぞれのいいところが、スラスラと頭の中に浮かび上がってくる。

やっぱり、テイムして、まだ三人とも日は浅いけど、一緒に過ごしていくうちに、愛が深まっていっているんだと改めて感じる。


これから先も、一緒に過ごしたり、探索したり、休んだり…、色々な事をしていこうな…!





……まあ、今はこの事は置いといて…


俺もピコに聞きたい事を聞いてみようかな。

俺は、手の上に乗っているハクを、定位置である、頭の上に戻す。


「…ピコ…さんは、モルモットが好きなんですか?」


俺は、いまだにモイカ達を見て、微笑んでいるピコに話しかける。

…話しかけてもいいのかなとも思ったけど…、俺も少し話を聞いてみたかったからな。

ここは声を掛けさせてもらう。


「…あっ、今さらなんですけど、シドさんは敬語じゃなくてもいいですよ。俺としても、そっちの方が話しやすいので」


「…えっ、いいんですか?」


「はい。もし、敬語の方がいいっていうなら、いいんですけど…」


んー…。


ピコもこう言っているんだし、…ここは、お言葉に甘えさせてもらおうかな。

正直、俺としては、そっちの方が話しやすいからな。


「だったら……、そうさせてもらうよ。ありがとう、ピコ」


「いえいえ。俺としても、そっちの方がいいので」


「……ピコは、敬語のままでいいのか?」


「俺は、モイカちゃん達を見させてもらっている立場ですし、こっちで話すのにも慣れているので、このままで大丈夫です」


「…そっか。わかった」


ピコが敬語の方がいいと言うなら、無理に変えさせるわけにもいかないな。

俺としても、話しやすい方で喋ってもらいたいし。


ただ、気楽に話せるようにもうなりたいな…。このゲームを始めてから、話をした人たちって、大体敬語だったもんな。…全員NPCだから、当たり前かもしれないけど。

まあ…、そんな急がなくてもいいか。今は焦らずに、ピコと話しをしよう。


「それで、さっきの質問なんだけど…ピコはモルモットが好きなのか?」


俺は、さっきした質問をまたピコに問いかける。


「…うーんとですね…。…正直、モルモットがめちゃめちゃ好きかって言われると、そうじゃないんですよ」


「…え!?そうなのか?」


ピコの言った言葉に俺は驚いた。


モイカを近くで見たいっていう理由で、俺に話しかけてきたぐらいだから、もっと好きなのかなと思っていた…。


「そうなんですよね。けど…、ゲーム初日に、とある掲示板で、シドさんの話題が出ていてですね……そこから少しずつ、気になりはじめたんです」


「……うん?掲示板に……俺の話題?」


俺はピコの言葉に耳を疑う。


掲示板というものは俺も、耳のしたことがある。

取り上げたゲームについて、日常の会話だったり、質問だったり、助言だったりと、色々な話し合いができる、プレイヤー同士の交流の場。

これが掲示板だな。


でも、なんで、掲示板に俺の話題が…。しかも、初日に…。


「…モイカちゃんについてですね」


「……なるほど」


すぐに納得する俺。

確かに…、モイカをテイムしたのは、初日だし、大通りも歩いていたからな…。そう言う話が少し出ていてもおかしくはないかもしれない。


ただ…、別に話されるのはいいけど、少し目立ってしまいそうで怖い。

できるだけ目立たずに、ゲームを楽しみたい気持ちもあるから、あまりにもになったら、少し言っておいた方がいいかもしれないな。

今の所、俺としても、問題は全然ないから、そのままにしておいても大丈夫かな。…ちょっとだけ、俺の可愛いモンスター達を見て欲しいって言う気持ちもあるしね…!


「そこで今日、少し探してみようと思って、歩いていたら、偶然にもシドさんを見つけることができたんですけど……、俺、衝撃を受けたんですよ…!」


「衝撃?」


「そうです…!」


「…何にだ…?」


「…モルモット……モイカちゃんの可愛さにです!俺、本当にびっくりしたんですよ。シドさんを見つけた時、初めは、後ろからしか見れなかったんですけど…、偶然モイカちゃんが、リアちゃんの上から、一瞬だけこっちを見てきたんです。それを見た瞬間……、モイカちゃんの虜になってしまいまして…」


「…な、なるほど。それで、俺に話しかけてきたと…」


ピコの勢いに、少し圧倒され、苦笑いをしながら、俺はそう言う。


「はいっ!もっと近くで見てみたいと思っていたら …、勢い余って話しかけてしまいました…。その、迷惑だったら、申し訳ないです」


「いや、全然迷惑ではなかったから大丈夫」


そう言った経緯で、俺に話しかけてきたんだなー。

まさか、モイカに一目惚れのようなものをして、話しかけたのびっくりしたけど…、ピコとこうして、話せる機会を得られたから良かったかな。


「それは良かったです…!…でも、俺は、シドさんに話しかけて良かったって思います。モイカちゃんだけでなく、ハクくんや、リアちゃんを見ることもできましたし……こうして、シドさんとも話せてますしね!」


「…そう言って貰えると嬉しいな。ありがとう」


あまり、そう言ったことを言われてこなかったから、少し照れくさいな…!

モイカ達を見れたことで、嬉しくなるのはわかるけど、まさか俺と話せることにも良かったと思ってくれているとは。


ピコ……君は優しい青年だ!



「…あっ!そうだ。シドさんは、明日のイベントについて知っていますよね?」


「…え?うん、知っているけど…」


ピコがいきなり、明日のイベントについて、聞いてくる。

何か情報を知っているのか?


「その明日のイベントでですね…。シドさんが欲しそうな報酬があるって言う噂なんですよ」


「俺の欲しそうな報酬…?」


確かに、明日のイベントでは、討伐数に応じた報酬、クエスト貢献度に応じた報酬がもらえる。


そこに、俺の欲しそうな報酬…?

確かに、色々と欲しいものはあるけど、一体なんなんだろう…。


「まだ、どっちの報酬かはわかっていないですけど……、あるらしいんですよ…。…カメラが…!」



……


…!?


「カメラが報酬であるのか!」


「本当かどうかはわからないんですけど、そう言った話しを聞いたんですよ」


…ピコの言う通り、確かに俺が欲しかった物だ。

…なんなら、一番欲しかったと言っても過言ではないかもしれない!


今までに、何度モイ達の写真を撮りたいと思ったか…。土地の芝生のようなところで、戯れる三人、リアの上に乗っているモイカ、土地の上を飛び回るモイカ、などなど写真を撮ってみたかった場面が多々あった。


もし、それが本当なのなら…、絶対に手に入れなければ…!!


「ピコ…、ありがとう!本当かどうかわからなくても、教えてくれただけで、ありがたいよ」


「いえいえ。少しでも、シドさんのためになれたなら良かったです!」


そう言って、笑顔でこちらを見てくるピコ。


まだ僅かな時間しか話してないけど…ピコが優しくて、聖人みたいな人っていうのはわかるな。


一番初めに会えたプレイヤーが、ピコで本当に良かったかもしれない。


あっ、そうだ。

折角こうして、話すことができたんだし、フレンドになってもら……


「…あ…!ごめんなさい!ちょっと友人に呼ばれてしまったので、今日はもう戻ろうと思います」


ピコが急に、慌てた様子になり、俺にそう伝えてくる。

多分、友人からメールか何かがあったんだろう。


…本当は、フレンドになってもらおうかなって思ったんだけど…、急いでいるみたいだし、今日はやめておくか。

別に、また会える可能性だってあるしな。


「わかった。じゃあ、また会えたら」


「はい。その時はよろしくお願いします!」


そう言って、ピコは走って、きた道を戻って行った。


話せた時間は短かったけど、いい時間を過ごすことができたな。

正直…、初めは少し緊張していたけど、ピコも優しくて、楽に話すことができた。


また、会えたら、モイカ達をまた見せてあげて、もっと色々な話ができたらいいな。


「よし…、地図の穴埋めを続けるか」


「ぷいっ!」「ピィー!」「カウっ!」


俺がそう言うと、一番初めの通り、モイカはリアの上へ、ハクはそのままの頭の上でポジションを取る。


少し時間を取られてしまったから、そこまで長くは埋めれないかもしれないけど、行けるところまで、歩いていこう。


俺たちはこうして、地図埋めと探索を再開した。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


ピコside



………



「……き、緊張した…」


俺は、シドさんと離れた後に、誰もいない小道で、少し休憩をとっていた。

友人から呼ばれたのは本当だけれど、それまでまだ時間はあるし、まだ時間もあったから、ここで少し休んでいる状態だ。


…ならなぜ、急いだフリをしていたかって…?

それは簡単…。


シドさんに迷惑だと思ったから。


本当は、もっと色々な話をしたいって思っていたのけれど、シドさんのやりたいことを止めてしまっているのでは…と考えてしまって、早めに切り上げたってことだ。


俺が勢い余って話しかけて声をかけてしまったからな…。

ほんと、何をやっているんだろう…。

掲示板でも、迷惑をかけないようにと言われていたのに…!

…初日と2日目に、見ることができなく、やっと見ることができたから、行ってしまったな…。


「…しかも、なぜか敬語のままだったし…」


折角むこうも、敬語のままでいいのかって聞いてきたのに、緊張していたからか、敬語のままで言ってしまった。


…見ての通り、大体俺はこんな感じで話していて、掲示板でも、軽く話していて、敬語とかではあまり話さない。


けど、シドさんを目の前にすると、緊張してしまって、いつも通りの俺じゃなくなってたんだよな…。

本当は俺も、シドさんと、タメ語のような感じで話してみたかった。


「…はぁ…。…まあ、また会えたら、普通に話せるようにしてみよう」


このゲームをやっていれば、どこかでまた会えるはずだ。

その時には、俺も普段通り話せるようになって…、シドさんが良ければ、フレンドにもなってもらいたい。


まだ俺も、フレンドが多いわけでもないし、モイカちゃんにもまた、あってみたいし。


「…もうそろそろ向かいますか」


俺はこうして、友人の待つ場所へと歩いて行った。


—————————————————————-


読んでくださりありがとうございます。


知っている人もいると思いますが…、掲示板回にピコは出てきています。その時と、話し方が違うと思った方もいたと思いますが……掲示板の方が、普段の話し方ですね。


また、ピコと会う事ができるのか…。

そこも楽しみにしていてください!



そして、星評価(レビュー)が300、そして...350も突破しました!

本当にありがとうございます!


引き続き、この小説をよろしくお願いします。

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