第27話 青葉とリモート会話

 夜景を楽しんだ私とお義姉様は運転手が待つ車に戻ると、それに乗って連泊するホテルへ向かう。


「それじゃあ、私は部屋で休んでいるから。風呂の時間になったら呼ぶわよ」


「風呂の時間ですか?」


「そうよ、貸し切りでこのホテルにしかないとっておきの温泉があるのよ」


「それは是非入ってみたいです」


「楽しみなようね。それじゃあ」


 お義姉様はそう言って部屋に向かった。


 私も部屋に戻ると青葉にスマホで青葉宛てにチャット会話を送る。


 私は「今日、リモートで会話できるかな?」と入力。すぐに既読になり返事がくる。


「準備するから待っていて」


 私はパソコンを開いて青葉のリモート準備完了を待つ。


 リモート準備が完了すると、私は青葉から送られてきたリモート部屋内容を見て、その部屋に入る。


「ありがとう青葉、聞こえる?」


「こっちは聞こえるよ」


「ごめんね……リモートの準備なんかさせちゃって」


「気にしないで。僕も水火と会話したかったから」


「嬉しい……」


「ところで、お義姉様とはうまくやれてる?」


「うん、うるさいところがあるけれどいい人で良かった」


「お義姉様は毎回酔いつぶれているか頭を痛がっているお兄様に変わって赤沢グループの実権を握っているからね。偉そうにするところもあるけれど多めに見て」


「分かっているよ。ストレスが溜まりやすい立場だもんね。リラックスとかプライベートは必要だよね」


 ストレス発散のために赤沢グループの上の立場の者は贅沢なプライベートを楽しまなければいけない。節約などもっての他。


 金というのは使える時に使わなければいけないのが赤沢グループの鉄則なのだ。


「お金の事なら気にしないで毎日何千何億のお金がグループの講座に振り込まれる」


「でも、私の日給1000万円なのはいいの? 嬉しいけど青葉と結婚してから毎日1000万円なんてお金は高すぎるよ」


「赤沢家の給料は大体そんなもんだよ。毎日1千万円もらうなんて当たり前だよ」


 赤沢家の人間は高額な給料をもらっているようで日給1000万など月給3億のようなもの。


 そして年収に直せば36億円。毎日何千何億のお金が入ってくるからと言って赤沢家の人間がそんなにもらっていいものかとも思う。


 しかし、赤沢グループの一般社員の給料が年収250万から500万円と考えれば年収36億円など赤沢家の人間の中では安いのかもしれない。


「まあ、そうか一般社員も人数は多いけれど年収500万程度だもんね」


「部長クラスだと年収1000万だろうし、グループ傘下の社長は年収5000万」


「そうなんだ」


「まあ、お父様である会長がそのように定めたんだけどね」


「お義父様が?」


「お金を毎回バラバラな金額でもらっていたら、贅沢なことをした後で給料が少ない時に困るでしょ。だから、赤沢家の人間でも毎日決められた額のお金をもらうし、一般社員は贅沢出来ないように月給にしているくらいだから」


 グループの経営者ならば給料を定めるのは当然のことだと私は理解した。お金の問題は労働者の中で最も関わってくること。世の中お金だとかいう人が多い。私も一般市民もお金関連の話をしてくるのはまさに給料という制度があるからだ。


「すごいね。お金持ちは……。私なんてヤンキー時代のお小遣いは毎月1万円あるかないかだったし」


「それじゃあお金足りないんじゃないの?」


「青葉君には本当のことを話すけど、私、昔はカツアゲしていたの」


「カツアゲって何かな? 揚げ物? 串揚げの一種?」


 資産家育ちの青葉に一般市民の言葉が分からないようだったので私が説明する。


「分からないよね。 お金持ってそうな人狙って脅したり……強引に殴ったり蹴ったりしてお金を取っていたの……」


「そうなんだ。まあ、ヤンキーならやること……か」


 私がカツアゲをしていたのは事実。悪仲間Aさん達と協力して金持っていそうな人を片っ端から脅したりして金を取っていた。でも私が金を取っていたのは悪い男の人や女の人だけ。


 要するに悪さしてお金を手に入れた人にしかカツアゲをしていない。


「ごめんね。こんな女最低だよね。でもこれだけは信じてほしいの。私がカツアゲをしたのは悪い人だけ……」


「うん、信じるよ。だって水火は優しいから。それにカツアゲしたお金は自分のためだけに使っていたわけでもないんでしょ?」


「どうして分かるの?」


「分からないわけないでしょ。だって水火は困っている人にはお金を恵んだり寄付したりしていたじゃん」


 私は自分の生活のためにカツアゲをしていたが、それが悪い事だという罪悪感があった。


 ヤンキーだから誰もが悪だと私を認識していても、貧しい人のために力になりたい。そんな思いがあった。


 それは青葉に命を救われた後も変わらず、青葉はそんな私の行動を見ていたようだ。


「そうだったね。青葉には私の事は全部お見通しだね」


「水火の夫だから、ちゃんと分からないと」


 私と青葉はその次に現状報告をした後、お互いに「おやすみなさい」と言ってリモートを切断した。


 思えば長く会話をしていた。リモートを終えてホテルの館内着である浴衣に着替えようとしたところでお義姉様の声がする。


「水火さん、温泉の準備が出来たって」


「はい、今着替えて部屋出ます」


 すぐに着替え終えた水火は部屋を出て先に浴衣に着替えていたお義姉様と一緒にその温泉に向かった。

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