第15話 清掃作業をして人の本性を見抜く

 青葉と私は自然とプールでやりあっていた。私にとって青葉のサプライズは嬉しい気持ちだから。


 青葉自身は私が飛び込んできたことで苦しそうだった。それも167センチの女の子が突然飛び込んできて抱きしめられたのだから、小柄な青葉にとっては痛いものだった。


「水火……痛い……」


「ああ……ごめん……私、つい」


 私は青葉から離れて下を向いて照れる。


「水火は力が強いね……」


「まあ、空手やっていたし……その前はヤンキーで喧嘩ばかりしてたから……」


「そう……だったんだね」


 この時、青葉は思っていた。こんなんで子作りなど出来るはずもない。我慢できずにこっちの方がKOしそうだと。


 それでも青葉は私の事を愛してくれているので、精進はしてみるようだ。


 その日の夜はプールで1日を楽しんだ。そして次の日の朝、仕事をやるといっても青葉と私には今やるべき仕事がない。


 そんな中でも私にはやりたいことがあった。


「青葉、私に清掃作業をしばらくやらせてほしい」


「清掃、そういうのはメイドがやるものでしょ? もしくは従業員やバイトとか」


「いや、私がやるの。もちろん私の身に何かあった時のために青葉もついていてほしいな」


「それはいいけど水火って清掃をやるようなタイプだっけ?」


「お掃除は幼い時からやってたよ。雑用ばかりさせられてたから」


「分かった。僕も上の者に立つなら清掃はやっておけとお父様から言われているからね。付き合うよ」


 私は1ヶ月の間で様々な場所に行っては清掃作業を行った。それは建物を綺麗にする清掃が好きだったという理由があるが、それは表向きの理由。私には別の目的があった。


 私は頭にバンダナをつけては眼鏡とマスクをつけて地味な格好をする。服装もTシャツにエプロンに茶色い長ズボンと長靴といった格好。


 こんな格好を見た社員がどんな反応をするか。


 いろんな建物を周っている中でちょうど赤沢グループ傘下の宴会専門の高級ホテルのトイレで清掃を行っていると、1人の女性社員が私を見下す。


「な~に、そんな地味な格好で清掃なんかしちゃって。所詮底辺で就職に失敗したからとか高校いけなかったからとか? かわいそ~」


 私は名札を見てその人の苗字が青山であることを知った。


 私は今日の仕事を終えると屋敷に帰って青葉にこのことを報告する。


「青葉、今日の宴会専門のホテルに行ったけど、1人だけ私を見下した人がいた」


「それは本当か?」


「うん、青山って人……」


「僕は傘下の会社の社員の顔と名前は分からない。でもホテルのオーナーは分かると思うよ。明日相談してみよう」


 赤沢家の人間は傘下の会社の社長やオーナーの名前は覚えるがそれ以外の人間は基本覚えない。


 声をかける時は「君」とか「そこのあなた」とか「おい、そこの」とかでどうにでもなる。


 私もメイドと執事の名前はメイドだった時は顔と名前は覚えなければいけなくて大変だったが、今となってはそんな必要もない。


 単なる声掛けで反応してくれては命令を聞く。


 青葉君もそういった社員の物事に突っかかることはしないが、私を見下すような態度は許せなかったようで、オーナーに相談するとのこと。


「私は1週間そのホテルで清掃作業をするよ。またあの、青山って人が水火によからぬことをするかもしれない。だから僕も明日そこへ行く」


「他のお仕事はいいの?」


「そんなものは、後回しに出来る。それにグループ傘下の社員にそんな奴がいるのは赤沢家の人間として見過ごせないし、それよりも水火の身が心配だよ」


「えっ?」


 こういう青葉の私の事を思ってくれる態度に私はドキドキしてしまう。


「ああ、いや、夫が妻を心配するのは当然でしょ。だからさ」


「ありがとう。でも私のために無理はしないで」


 私は青葉には出来る限り心配かけたくない。でも心配してくれることが嬉しい事。


 だからこそ、赤沢グループのために努力したいと思っている。今回の青山という社員は明日も仕事をしていれば今度はとんでもない嫌がらせをしてくるだろう。その証拠をおさえる。


 次の日、青葉君は例のホテルのオーナーに事情を説明していた。


「青山って社員がここの清掃員で働いている妻に酷い仕打ちをしているようだよ」


「そんなバカな。あの青山さんが?」


 オーナーは驚きを隠せなかった。どうやら青山は仕事が出来ていてリーダーシップのある人物。下級の人間が彼女を訴えても無視されるかお咎めもないとか。


 むしろそんなことがあるから、彼女は調子に乗っているのだろう。


「分かった。じゃあオーナー、お願いがある」


「何でしょう。青葉様のお願いならば出来るだけの事であればやります」


「このトイレとその付近の廊下や宴会場に監視カメラの設置することを認めてほしい」


「トイレは、プライバシーがありますから……」


「だろうね。その監視カメラの映像は僕のメイドに見させる。それでいいかな?」


 ここまで言われたら、オーナーも承諾した。


 一方私はいつも通りに清掃作業を行っていた。予想通りにトイレに青山が来た。彼女は監視カメラには気づいていないようだった。

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