第11話 ウェディング その5

 月は私を見て最後の力を振り絞ったかのように聞きたくもない暴言を吐く。


「お前のせいだ! お前がいなくなっていれば! 私は幸せでいられたんだ。お前がお父さんとお母さんを売ったんだ!」


「違う! そんなんじゃない……」


「違わない! それに隣にいる小学生の男子は何なのよ!」


 青葉君を指さす月に対して警察の人から怒鳴られる。


「暴れないで! 早くパトカーに乗りなさい!」


「くそ! くっそおおお!」


 月はパトカーに乗せられ連れていかれた。青葉君は私を慰めてくれる。


「大丈夫? これからは僕達が水火の家族だからね」


「うん……こっちも妹がごめん……」


 私は黙りこんで車に戻る。ようやく悪い家族から解放されたと思ったら嬉しいというよりは妹も最終的には悪のままだったのでショックだった。


 私は車の中で思わず泣いてしまった。そんな私を青葉君は慰めてくれる。


「家族の事でしょ。仕方がないよ。両親はきっと極刑だろうし、妹さんもきっと少年院あたりだろうね……」


「どうして……どうしてこうなるの……私も本当はお父さんやお母さん、月と一緒に幸せになりたかったのに……」


 私は青葉君に抱き着いて泣き続けた。この日は1日、今日の事で何も出来なかった。


 その後、私の両親は詐欺だけではなく殺人などで終身刑。月は少年院送りになった。


 ちなみに両親がだまし取った千億円は成川ラインの全ての会社の資産や実家を売却して返す結果となったが、50億にしかならなかった。


 結局、千億円なんて金は人生をかけても返せるはずもない。私はおそらく両親から縁を切られているから、その重みは後に月が背負うのだろう。


 でも、そんなことはどうでも良かった。


 次の日には、私は何という事もなく、屋敷で仕事をした。私服で青葉君と行動を共にして。


「昨日は大丈夫だった?」


「うん、青葉君にも嫌な思いをさせてごめんね」


「いいよ、僕は水火に幸せになってほしいから。でも本当は僕、水火の両親や妹さんとやり直してほしかった」


「何も言わないで。もう私には関係ないことだし。それより私の誕生日が楽しみ」


 私は笑顔でジャンプして青葉君を見ると、ウィンクして元気なところをアピールする。


「これからよろしくね」


「これからって、これまでずっと一緒に働いてきたじゃん」


「結婚してからはこれから!」


「やれやれ」


 そんな楽しい日々が続いて2ヶ月後、夏になって私の誕生日の日が来た。


 私は青葉君と2人っきり、高級レストランで食事をする。


 そこは、私と青葉君が結婚の約束をしたホテルの最上階の下の階にあるレストラン。


 私は黒いドレスのコーデで青葉君は紳士なスーツでレストランに入る。


 どちらも未成年ということでお酒は飲めない為、お互いにオレンジジュースを頼んだ。


 そして、前菜のキャベツのサラダ、赤たまねぎのスープ、高級魚のソース焼き、デザートのケーキという順番で来る。


 ケーキにはろうそく16本が刺さっており、店員が水火の誕生日を祝ってくれる。


 ただ、他の人から見て私と青葉君はカップルではなく、弟と姉って感じの視線で見られている。しかしそれもなれたことで気にしなかった。


 こんなカップルのひそひそ話が聞こえる。


「いいわね。あの小さい子。お姉ちゃんにお誕生日のお祝いなんて」


「いや、どうやらあれはカップルらしいぞ」


「嘘でしょ? どう考えたってお姉さんと弟君よ。カップルには見えないわ」


 これに青葉君は反応する。


「気になるよね。ごめんね。僕がこんな体系なばかりに」


「いいよ。むしろその体系のままがいい。だって私、告白の時に言ったでしょ」


「そうだったね。さて、食事を楽しもうか」


 食事を楽しんで、デザートのケーキが来た時、バイオリンとピアノの美しい音と共にバースデーソングを店員さんがアレンジして歌ってくれた。


 歌い終えたタイミングで私はろうそくの火を消す。周りのお客さんも祝ってくれた。


 そして青葉君は、私にプレゼントの箱を渡す。


「水火、これは僕からの誕生日プレゼント」


「何? 開けても……いいかな?」


「うん」


 首を縦に振った青葉君。私はプレゼントの箱を開ける。


 それは、サファイアで出来たネックレス。


「綺麗……こんなのを?」


「僕の気持ちだよ、水火」


「ありがとう……青葉君……嬉しい……」


 青葉君はサファイアのネックレスを私の首にかけながら言う。


「もう……君付けはよしてよ。これから夫婦になるのに。青葉って呼び捨てでいいよ」


「……うん……分かった……青葉」


 私は泣きながらも笑って青葉君、いや……青葉と呼び捨てで言った。


「また泣いて……水火は泣き虫なんだ」


「ごめんね……私……辛い事ばっかりで……こんなにいつも楽しくて明るい環境に恵まれなかったから……夢みたいで」


「夢じゃないよ。これからも、ずっと一緒にね」


「うん……もう私、泣かないから……」


「泣きたいときは泣いたっていいよ。僕が側にいるからさ」


 こうして私は楽しい誕生日を終えた。


 そして結婚式当日。私はウェディングドレス姿。スタッフさんが丁寧にやってくれたおかげでとても綺麗な姿になった。鏡に映る自分はまるでお姫様のようだった。


「これが……私……」


 スタッフさんはこの時、「とても似合っています」と褒めてくれた。

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