第5話 本当の私

 店員さんは頑張ってらしい服装を用意するが、そうはいかない。


 私が想像するようなレディースチームのようなスケバン。そんな感じには出来なかった。


 それもそのはず。この店の服は一般人専用の衣服屋。その中でもチャラい感じの服なんてない。


 こんな店にそもそも私が求めるものなどない。そう思っていた。


 しかし、黒いシャツと黒い半袖のジャケット。これでヤンキーな感じになれそうな気がした。


「ねえ店員さん」


「いかがいたしましたか?」


「こういう服装って私に似合うかな?」


「お似合いだと思います。水火様は美しいよりも派手なオーラです。このような黒いものを着こなせます」


「ありがとう……」


 その後、ズボンを選んだり下着を選んだり、さらにアクセサリーを選ぶなどした。


 服を選び始めてから2時間後、着替え終えた私は青葉君の元へ行った。


 青葉君は私を見ると驚き照れ始める。


「水火……その格好は」


「どう……かな……これが私の……性格というか……なりたかった格好……」


 この店で選んだ中ではなりたかった格好だ。


 服は店員さんと相談した黒いシャツに半袖の黒いジャケット。下はグレーの半ズボンでポケットの多い感じと赤いベルトをつけることでクールな感じにしている。


 ベルトは見せられるように黒いシャツは丈が短め。とはいえ大胆にお腹と背中が露出しているのは私も恥ずかしい。だからお腹と背中は露出していなくても、ベルトが見える程度の丈が短めの黒いシャツを選んだ。それでも腕を上にあげたりすればお腹と背中が少しだけ露出してしまう。


 でも最近の女性の一般人でもお腹と背中を少しだけ露出させる人は多いから私はそれくらいなら気にしない。


ベルトを見せつけるのとお腹と背中を出すのが恥ずかしいならシャツインすればいいだろと思うかもしれないが、それは私にとってダサいと思っている。


 だから、青葉君に私らしさを伝えるなら、お腹と背中が少し露出するくらいなんということもない。そんな気持ちだった。


 また、赤い耳ピアスをつけたり、靴は黒いシューズで靴下も短くて黒い靴下。


 ピアスとベルトは赤、ズボンはグレーで後は黒で統一させた感じの格好。


 そんな見た目を見た青葉君は下を向いて呟く。


「分かっているよ、水火がヤンキーであったことは。あの公園で水火を助けた時、学生なのに派手な格好をした気の強そうな人だと思った」


 そう思われても仕方がない。何しろ私の身長は167センチ、体重55キロ。胸もBカップで青葉君に助けられたときは乱れた学生服の格好。普通の女性と比較すれば顔は可愛い方かもしれないが他の見た目で判断すればヤンキーだって誰だって思う。


 それでも青葉君は私を助けてくれた。ヤンキーかもしれないし、悪い事をされるかもしれない。でも私の事を助けたいって思って助けてくれた。


 この思いに私は答えなければいけない。


「私の事……青葉君はヤンキーだと思っていたんだよね。そう、私はヤンキー。中学になってから家族とのトラブルで悪仲間とつるんで悪さもしたし、気に入らない人と暴力で喧嘩もした」


 そんなことを言っている時、近くから顔見知りの人達が現れる。それは悪仲間Aさんや悪仲間Bさんといった悪仲間達だ。


「あら、あんた水火。あんだけボロボロになったのにまさか生きていたなんて」


 私は悪仲間Aさんの言葉で、ヤンキーとなっていた。


「運が良いだけ。それで、どうするっていうの?」


 悪仲間Aさんは青葉君を見て笑う。


「どうするって、そのチビはなんなの?」


「私の婚約者だけど?」


「アハハハハ、こんなのが婚約者。あんたそういう趣味? キッモ」


 悪仲間Aさん達が私を馬鹿にするも、彼女達は状況を理解できていない。既に青葉君と私の護衛の人達が青葉君と私を守るために彼女達をターゲットにしていることを。


「どう思ってもいい。でも私は資産家の婚約者だし……」


「資産家? 冗談でしょ?」


「赤沢グループの御曹司だけど?」


「はあ⁉ あの⁉」


 こういうタイプの人間は青葉君が資産家の御曹司と分かったとたんに食いついてくる。


「あのさ、あんな奴じゃなくて私と付き合ってよ」


「何を言っているの。僕みたいなチビとの婚約って悪い趣味でしょ?」


「いや……それはなんというか」


「分かるんだよ。君みたいに人を見下すしか考えない人がやることなんて」


「何よ! 私の方が水火なんかよりも!」


 こうなってブチキれた悪仲間Aさんは青葉君に手を出そうとする。


 それを見た私は青葉君を守るために悪仲間Aさんの腕を掴み止める。


 それを悪仲間Aさんはふりはらって、他の仲間の皆さんと一緒に私に襲い掛かる。


「このくたばりぞこない! 今度こそくたばりなさいよ!」


 私は空手のカウンターの正拳突きや蹴り。手刀で悪仲間Aさん達を圧倒。そこへ護衛の皆さんが悪仲間Aさん達を取り押さえる。そして護衛の1人が悪仲間Aさん達を連行しながらしゃべる。


「証拠は監視カメラで押さえている。大人しくしろ! 警察も呼んだ!」


「くそっ! どうしてなのよ。どうして水火みたいな奴が!」


 悔しがる悪仲間Aさんの発言を護衛も私達も聞こうとはしなかった。私を裏切り、強引に玉の輿に乗ろうとした当然の報いだと私は思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る