第8話 私に出来る事って何だろう?

「うう……」


 部屋に戻った後。私は着替えもせずに、力無くベッドに突っ伏した。

 やった。やってしまった。魔王デビュー、思いっきり失敗した。

 台詞を忘れただけでもアレなのに。噛んだ。思いっきり噛んだ。

 ダンタルクさんは、無理させたのは自分だから気にしないでいいって言ったけど……。あんなのでダンタルクさんの言うような、カリスマ溢れる魔王に見られる訳ないよーーー!!


「……あの……愛奈、大丈夫ですか……?」


 自分の不甲斐なさに消えたい気持ちになってると、ノックと共にルルベルの声がした。どうやら心配して、様子を見に来てくれたらしい。


「……大丈夫じゃない……」

「あの、中に入っても大丈夫でしょうか……?」

「はい……」


 顔を上げずに返事をすると、小さくドアの開く音がした。絨毯を踏む微かな音が、ルルベルが近付いてきている事を伝える。


「愛奈」

「はい……」

「愛奈はよく頑張りましたよ。私が同じ立場だったら、きっとあの場に立つ事も出来なかったと思います」


 その言葉と共に降る、優しく頭を撫でる手。温かくて優しいその感触に、何だか目頭が熱くなってきてしまう。


「魔王様に出来た事が愛奈に出来なくたって、きっといいんです。だって、どんなに魂が一緒と言ったって、魔王様と愛奈は別の存在なんですから」

「……ルルベル……」

「それに、魔王様には出来なくて愛奈に出来る事だってきっとあると、私は思いますよ」


 泣いた。今度こそ、涙が出てきた。それくらい、今の言葉は沁みた。

 そして理解した。今日失敗したのは、前の魔王と同じようにしなきゃって気を張りすぎたせいだ。

 そんなの出来る訳なかった。だって、私は魔王の生まれ変わりかもしれなくても、顔立ち以外何もかも、話に聞いた魔王とは違うんだから。

 例え今日、前の魔王のように振る舞えたって、いつかはきっとボロが出る。遅かれ早かれ、きっとこうなっていたんだ。

 でも、それなら……この世界で私が出来る事って、一体何なんだろう?

 どうすれば元の世界に戻れる? どうすれば翔ちゃんにまた会える?

 私、本当に、このまま魔王を続けていいのかな……?


「大変です、アイラ様!」

「ぴゃっ!?」


 その時突然大きくドアが開く音がして、私は思わず変な悲鳴を上げてしまう。何があったのかと振り返ると、そこには息を切らしたダンタルクさんがいた。


「ダンタルク様、魔王様はただいま体調が優れず……」

「解っている! しかし緊急事態なのだ……!」


 ダンタルクさんのこんな焦った様子は、今まで見た事がない。さっきの失敗したお披露目の時だって、落ち着いた感じで私を慰めてくれたのに。


「ダンタルクさん、何か……あったんですか?」


 不安を覚えながら、問いかける。するとダンタルクさんは、眉間に深いシワを寄せながら言った。


「人間共が、我ら魔族の領地に侵攻を開始しました……!」

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