出雲薫の恩寵

河城 魚拓

第1話 

 自分の過去を話すときは、その過去を語ることにより、誰かを救う必要があると思う。そうでないと、過去を語るということは、ただの自慢のようになってしまうからだ。だから、過去を告白するときは、その過去がだれかの参考になるようにしないといけないのだ。様々な本を読んでいても、僕はそう思う。

 つまり、僕がこうやって今から自身の過去を語るということは、誰かを救うための行動をしたということになるだろう。

 僕は名を、出雲薫と言う。

 僕はひどい両親のもとに生まれた。父からは放任され、母からは犯されていた。そんな絶望的な環境でも、兄という唯一の希望だけを頼りに幼少期を過ごした。しかし、ある日。母の暴走により、僕以外の出雲家の人間は死んだ。母は父と兄を殺した。兄は僕を守るために、最後の力を振り絞って母を殺した。

 そんな僕は、生きる希望なんて一つもなかったけれど、運よく素晴らしい人たちに出会い、様々な罪や悪を抱えた僕を受け入れてくれる人たちと出会い、その人のために生きることを決めた。

 特に、小鳥居弥生という女性は、僕と一緒に生きること決意してくれた、凛としていて、とても頼りになる女性だ。彼女がいるからこそ、僕は生きていく決意ができた。僕が自暴自棄になり、自死したくなり「誰か、僕を殺してくれ!」と叫んだときに、彼女が言った「あなたを殺そうとする人なんて、私が殺す!」という言葉は、今でも僕を支えてくれている。生きる力をくれている。

 ほかにも、こんな穢れた過去を持つ僕を好きになってくれている人たちがいて、その人たちもすべて、僕が生きていくための活力になっている。

 まあ、まとめると僕は絶望的な過去を、周りの人間の助力により振り切ることができた、幸運な人間だと言えるだろう。

 そんな幸福になった僕も、僕を助けてくれた人たちと同じように、人を救いたいと思っている。

 ただ、人が人を救う……ということをするには、ある程度の信頼関係がなくてはならない。そのため、人が人を救うということは、大変だ。

 考えてみてほしい。君たちが通りすがりの人に、あーだこーだ言われて、たとえそれが全くの正論だったとしても、果たして心に響くだろうか。きっと響かないはずだ。その正論が、君たちの人生を変えることはないだろう。

 そもそも、人が人に与える影響力は、小さいものだ。

 特に、個人差はあるだろうが、大人になってしまうと、どうしても人から影響を受けることが難しくなってしまう。

 だからこそ、子供が大人になる前に、できるだけ早く手を差し伸べることが大切だと思う。

 子供の感性は素晴らしい。だからこそ、悪い影響も良い影響も受け入れやすいからだ。大人より子供は、助けやすいし、傷つけやすいのだ。

 さて、これから語る物語は、そんな僕が人を助けることの大変さ、初めて人を救ったときの物語である。

 物語に入る前に、一言。

 

 すべての子供たちに、希望あらんことを。

 

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