051

目を開ける。気付いたら眠ってしまっていたようだった。

アオネは畳から身を起こした。手には読みかけの小説を持っていて、ローテーブルの上にはぬるくなった麦茶が置いてある。ぎこちなく首を振る扇風機、ゆっくりと煙をくゆらせる豚の形の蚊取り線香。開け放した縁側の窓からは、夏の午後の風景が見える。縁側に落ちた木陰が湿気を含んだ生ぬるい風で微かに揺れる。グリーンカーテンとして茂った朝顔の葉は、暑さで元気なくしなだれている。よく今まで眠っていられたな、と感心するほど、蝉の声がうるさかった。

どこかで見たような風景。昨日と同じ夏。そこまで思った時、電話が鳴った。スマートフォンではなく、家に備え付けてある固定電話。

アオネは立ち上がり、受話器を取る。

「はい、もしもし」

『聞こえる?よく聞いて。信じてもらえないかもしれないけど、これは本当なの』

ノイズ混じりの声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。

「あの、どちら様ですか?」

電話の向こうの誰かは、息を切らしているようだった。

『私は未来のあなた。今、あなたの身に危険が迫っている。今すぐその場から離れて』

私はこの声を何度も聞いたことがある。

『あなたは今日、死ぬことになる。外に出て。何かをして。夏を探して』

電話の向こうの女は続ける。

『信じられないことはわかってる。でも、家から出て。繰り返すよ、な』

そこで小さく悲鳴が聞こえて電話は切れた。あとはツーツーと音がするだけだった。

「夏を探す、か」

アオネは縁側の方を見る。穏やかな夏の景色が何も変わらずにそこにあった。蝉の声がしている。


①コンビニに行く 043へ

②友人に電話する 011へ

③神社に行く 024へ

④Fを使う 025へ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る