俺の前世は罪人A!?〜大罪人認定された俺はダンジョンを攻略して監獄都市から脱獄を目指す〜

七篠樫宮

一章 罪人A/ラスカ・テリオン

001 プロローグ:罪人前夜

 ――とある時代に、とある男が居た。

 なんて事のない、何処にでも居るような人物だった。

 ただ一つ、その男が他人と違った点を挙げるとすれば、男の周りには多くの才人がいて、様々な偉業を成し遂げていた事だろう。

 それが男にとって、数少ない誇りだった。

 天才達の姿は男にとって、とても眩しくて輝かしいものだった。

 

 ――いつからだろうか、男は彼らの隣に並び立つことを望み始めた。

 男はあらゆる分野に手を伸ばした。全ては天才達に引けを取らない、珠玉の才能を見つける為。

 

 ――しかし、その身は悲しい程に凡人であった。

 学問も、音楽も、芸術も、発明も、武術も、何もかもが届かない。その身を焦がし続ける、あの天賦の才にどれも遠く及ばない。


 ーー男は悟った。

 この身に宿る才能では、彼らには決して届かないと。

 それでも彼は諦めなかった。諦める事は出来なかった。思い付くまま、あまねく道を進み尽くした。


 ――長い長い研鑽の果てに、、男は至る。

 今の自分に才能が無いのなら、他の自分にならどうだろうか?

 世界を超えて、時空を超えて、遠い過去や遥かなる未来の自分にならば才能があるのではないか。


 ――常人であれば思い付かないだろう超常的発想。

 しかし、男は既に常人とはかけ離れてた。彼が歩んだ幾星霜の道は、彼が憧れた天上の領域に足を踏み入れていた。


 ――だから気づけない。

 その窮極きゅうきょくの地へ到達する、たった一つの細い糸を掴んだ情景が邪魔をする。

 あの天才達でも触れなかったソレが、どのような大罪なのか。


 ――そして、男は創り上げる。創り上げてしまった。

 世界の理を覆す――ソレを。


 ――ここに記されるのは、この輪廻継承の世界アルナの創世記。才能に焦がれた罪人の、馬鹿げた物語だ。



 ***


 仄暗ほのぐらく、肌寒さすら感じる洞窟を俺達3人は黙々と進んでいた。

 

 会話が無いのは俺達がまだ出会って1日も経っていないから――だけではない。ここは夢と希望の溢れる迷宮、ダンジョンの中だからだ。

 

 ダンジョンとは何か? それは未だに解明されて無い、世界七不思議の一つらしい。ちなみに他の七不思議は知らん。

 もし、ダンジョンについて解明出来たのなら偉業認定されて最新の英雄にでもなれるのだろう。

 

 うん。それを目指すのもアリかもしれない。俺は英雄になりたいんだ。いや、なる。そして、欲を言えば英雄になって可愛い女の子にチヤホヤされてお淑やかな女の子――絵本に出てくるお姫様のような子と結婚するんだ。


 そしたら綺麗な川のほとりにログハウスでも建ててだな、安らかに暮らそう。子供は2人くらいが良いな。確かコウノトリとかいう異世界で崇められてる鳥が運んできてくれるんだったか。が言ってたな。


 よし、今のうちにコウノトリ様とやらにお祈りを――――


「ちょっと! 聞いてるの??」


 あ?


「なんだよ、俺の将来設計の邪魔すんな。俺は英雄になる男だぞ」


「将来設計? だらしない顔してそんなどうでも良い事考えてたの? 此処を何処だと思ってるの? ダンジョンよ? そんな場所で気を抜いて死にたいのかしら? 第一、英雄英雄ってあなたは罪――」


「あっ、2人とも! そんな騒いだら――」


「グギャギャ」


 ダンジョンからは様々な素材が採取できる。なんでも、手に入るのはこの世界アルナにはない異世界の資源なのだとか。それだけ聞くとこの世には無い、未知なる素材を簡単に採れる宝の宝庫、金のなる鉱山のように聞こえるが、無論、それだけでは無い。

 

 敵対者モンスター。ダンジョンに生息する生きる障害物。

 ダンジョン内でとれる資源と同様に、異世界の生物なのではと噂されているらしい。

 らしい、というのもそれを教えられたのは今から数時間前の事だからだ。正直、俺の頭ではまだよく理解できてない。

 

 とりあえず、俺達の前で『グギャグギャ』言ってる汚れた緑色の二足歩行生物が、ダンジョンでは定番モンスターのゴブリンという事らしいのは分かった。


「おい、お前が騒ぐからモンスターさんがおいでなすったぞ」


「あなたが気を抜いていたのがいけないんでしょう?」


「は?」


「何よ??」


「ふ、2人ともー? ゴブリンは仲間を呼ぶらしいからさっさと倒さないと――」


「『グギャギャキャギャァァア!!』」


「「「あ」」」


 俺達をダンジョンに送り込んだ教師曰く、『ゴブリンは不利だと思うや否や仲間を呼び出して、地の果てまで追っかけてくるからー、出会ったらすぐ倒すんだよー? サーチアンドデストロイー!』という事らしい。

 なるほど。

 出るは出るは何処に隠れてたんだという数が狭い洞窟の中に溢れてくる。マジで何処にいたんだ? あっという間に洞窟にパンパンのゴブリンロードが出来上がった。


「画像で見させてもらった通り、ブサイクだなコイツら」


「そうね、こんなのがダンジョンにもいるなんて。汚らわしいわ」


「それと頭の方も悪いと見える。こんなに仲間集めても狭い洞窟じゃ身動き取れないだろ」


「あら、彼等は彼等なりに頭を使って闘ってるのよ。命のやりとりを私達はしてるの。ボーッとしてるどっかの誰かさんとは違ってね」


「? そうだな」


「や、やばいよ、これ。来た道にもゴブリンが溢れてる。囲まれてるよ!」


 後ろを振り返る。進行方向に溢れている緑の絨毯程ではないが、続々と横穴からゴブリン共が出てきているのが伺える。

 こちらが戦闘準備を終えるのを待っているのだろうか。いや、仲間を呼んだんだ。絶対に勝てると確信するまで様子見でもしているのか。


 ――お相手さんゴブリン共が動く気ないんだったら、こっちから攻めるのが定石だよな? 俺が知ってる英雄サマも、先手必勝って言ってたぜ。


「ど、どうしよう?」


「……そうね、これだけ数が多いのなら撤退しながらの方が良いかしら。まずは数の少ない後ろの敵を倒して道を作りたいわ」

 

「な、なら僕の作った爆弾でも使う? 最低でも牽制くらいにはなると思うんだけど」


「いいわね。前の敵は爆弾で牽制。その間に私と彼で撤退の為の道を作るわ」


 どうやら他の2人の中ではどうするか決まったようだ。


「あなたもそれで良いわね?」


「――悪いな、却下だ」


「……は、このに及んで何を――」


「『ゴブリンは一度見つけた敵を地の果てまで追ってくる』、あの能天気な教師の言葉だ。ここで逃げてもどうせジリ貧になるだけだぞ」


「それは……」


 ――だから選択肢は最初から一つだけ。


「ここで全員潰してやるよ。それに、俺は英雄になる男なんだ。こんなよく分からんブサイク共に敗走しただなんて英雄譚に書けないじゃねーか」


「グギャ」「グギ」「グギャギャ」「ギャゴ」

「「「「「グギャギャギャァア」」」」」


 洞窟全体を揺らす、ゴブリン共の鳴き声。どうやら相手の準備は整ったようだ。


「さっさと覚悟を決めろ。俺が前の奴らをやる。お前ら2人で後ろをやれ」


「……んーもう! 分かったわ! そんな大口叩いたんだから討ち漏らしでもしたら分かってるんでしょうね!?」


「そっちこそな。エリート罪人サマの力を見せてくれよ」


「罪人なのはあなたもでしょう!! ほら、あなたは爆弾で援護! 私の異能で確実に仕留めるわ!」


「ひゃい!!」


 そうだ。俺達は世間一般からは罪人として扱われているらしい。そして俺達3人は今季の罪人認定者の中でも傑出した人材らしい。

 

 ホント嘆かわしい限りだ。でもまあ、罪人から英雄に成り上がるというストーリーも悪くないかもしれない。


 背後で2人が戦闘に入ったのを察知して、俺は学園から支給された剣に魔術をかけた。光の魔術だ。効果は斬れ味や耐久の上昇。仄暗ほのぐらい洞窟に、小さな光が灯る。


「さて、未来の英雄の初陣だ」


 ――光輝く剣を振り抜く。


「『拝輝流剣術、一閃』」


 面白い位に斬られていくゴブリンを尻目に俺は昔の、と言っても数日前までの日常を思い出していた。

 このが送られる監獄都市に入る前の日々を、俺が罪人として認定されたあの日を――。

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