柳生十兵衛VSトーマス・エジソン

 超々巨大複合商業施設『日本』内部もやはり無限に改築と解体が繰り返されていた。だが商業施設としての機能を保有している。

 穴の開く床を歩き、十兵衛とメアリは食品コーナーに差し掛かり驚愕した。

「サイズが狂っている……」

 十兵衛は惣菜のありえざるサイズに驚愕した。

「施設のサイズに合わせて惣菜を作っているのかな?ウケる」

 メアリは薄ら笑いを浮かべていた。

 この施設は柳生の狂気の象徴であった。ただ実行する力があったから実行されているが、何の目的も無い。そんな柳生の狂気を数メートルサイズの餃子や家ほどの大きさのポテトサラダが表していた。

「よく来たな。招かねざる客人たちよ」

 雷鳴が響き、一人の男が十兵衛とメアリの前に立ち塞がった。

 馬鹿みたいな黄金色の強化外骨格に覆われた男だ。二振りのビームサーベルを既に抜刀している。斬り合いは避けられそうにない。そもそも十兵衛とメアリは全ての柳生を滅ぼすつもりなのだ。柳生の剣士が襲ってきたならば生きて帰しはしない。

「何者か?なんて俺は尋ねはしない。柳生ならばただ斬るのみだ」

「あっそうそう。僕は荒事だと一切頼りにならないので隠れるね」

 そう言うとメアリは周囲の風景と一体化した。光学迷彩である。人間の目に映らず、レーダーにも映らない。発見することは極めて困難な代物だ。これはニコラ・テスラの開発した装備である。

「私は柳生電光騎士、トーマス・エジソン。発明王だ」

 男はエジソンだった。かつては合衆国で数多の発明を行う発明家だったが、今ではおぞましき柳生の剣士。この超々巨大複合商業施設と自動建築機械群の開発を最後に剣士としての道を歩く剣士に成り果てた。

 エジソンは強化外骨格によって強化された脚力で、十兵衛へと飛びかかる。

「親父殿は異邦人まで柳生に引き入れているのか。こんな得物と具足頼りの奴を」

 十兵衛はあえてビームサーベルの直撃を受けた。胸には十字の傷が走る。

「どうだ!?十兵衛!!これが我が科学の結晶、ビームサーベルだ!!」

 勝ち誇り自らが開発したビームサーベルを自慢し出すエジソンを十兵衛は蹴りで吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたエジソンは数十メートル吹き飛び床で二回バウンドした。

「プラズマで焼き斬るという発想は悪くないと思うが……その程度の剣技では俺の命に届かんな」

 十兵衛はエジソンに向けて歩を進めた。

「スタングレネードッ!!」

 十兵衛に向けてスタングレネードが投擲された。

 瞬間、閃光と爆発音が響く。

「そこだ」

 十兵衛はツヴァイヘンダーを振るった。エジソンに斬撃が飛んでいく。

 飛ぶ斬撃はエジソンの右腕を切断した。だがエジソンは十兵衛から逃げ切った。

 十兵衛の五感で感知できる範囲は約一キロメートル。エジソンは二の太刀が振るわれる前に一キロメートル以上の距離を逃げ切ったのだ。

「この俺から逃げ切った奴は初めてだな。寝過ぎてなまったか。それとも腕が悪いか」

 十兵衛は自身の右腕の縫合跡を見る。十兵衛はあの江戸城で右腕を失った。蘇ったあと南極から合衆国に渡った十兵衛はミスカトニック大学の付属病院で弟の列堂義仙レツドウ・ギセンの腕を移植することになった。兄弟のものとはいえ、まだ完全に自身の腕として適合してはいない。細かい感覚がずれている。

 突如としてメアリのスマホが遠隔操作され通話を始めた。

『エジソンのハゲ、まだ生きていたのか?』

 天下にその名声を轟かし、全世界の少年少女に圧倒的知名度を誇る男をハゲと呼ぶこの男は一体何者なのか?

「テスラ卿、今の戦闘をご覧だったのですか?」

 メアリは通話先の相手をテスラと呼んだ。

『当たり前だろ?十兵衛に列堂義仙の右腕と目を移植しただけの価値があるのか何時でも値踏みしているぞ。この調子で頑張れよメアリ』


 

 

 

 エジソンにとってこの敗走は二度目である。

 一度目の敗走は、エジソンが経営する会社をニコラ・テスラが物理的に倒産させたときだ。テスラはセルビアからやって来た優秀な若者だった。エジソンは彼に様々な仕事を任せ、巨万の富を稼いだ。

『給料が安すぎるぞボケが。ぶち転がすぞハゲ』

 成果や職責に対してテスラの給料は極めて安かった。このときテスラ同期入社の五倍の仕事を任せられていた。

『入社一年目の給料はそれだけだよ。不満があるなら辞めたらどうだね?ん?』

 エジソンはこのテスラという青年を随分と安く見積もっていた。そのことを身をもって後悔することになった。

『辞めはしねえよ。この会社は今日で倒産だ』

 エジソンはこのとき初めてビームサーベルというものを見た。

 その光はエジソンの胴体を上下に分け、社屋を切り裂いてなお伸び続けた。

『出力が高すぎたか?改善の余地があるな』

 このときの敗北を受けてエジソンは思った。力が欲しい。誰にも負けることのない力が。

『力が欲しいですか?エジソン卿』

 死ぬはずだったエジソンに美しい声が響いた。そしてエジソンは柳生を受け入れ、柳生はエジソンを同化した。



「覚えていろよ、十兵衛。このトーマス・エジソン。受けた屈辱は生涯忘れん」

 試作瞬間移動装置を辛うじて起動したエジソンは超々巨大複合商業施設『日本』の最上階のフロアに横たわった。

 最上階のフロアには柳生でも指導者層に当たる者しか入ることを許されてはいない。

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