柳生十兵衛は二度死ぬ

筆開紙閉

反逆者・柳生十兵衛

 着港したフェリーから二人の人物が降りてきた。

 二人に降り注ぐ真夏の日差しは強く激しい。

 ここに降り立つのはただ二人のみだ。

 港に立つ看板にはこう書いてある。『一切の希望を捨てよ』、と。

「着いた。ここが柳生一族が経営する超々巨大複合商業施設『日本』だ」

 長く金髪を伸ばした若いスーツ姿の女が隣に立つ男に説明する。

 視線の先には視界の全てを埋め尽くすほど巨大な施設が聳え立つ。見上げれば天高く大気圏を越え宇宙空間まで伸びている。今もなお改築と増築が続けられ、誰にもその全貌は知られていない。そして外壁を這いずる巨大機械。超弩級戦艦ほどの大きさでムカデ型の自動建築機械がランダムに壁と窓とを増築している。

「メアリ、詳しい説明は不要だ。柳生は全て悉く切り捨てる。それだけだ」

 男はその異形の建築物やおぞましい自動建築機械に何ら関心を見せなかった。

 彼の名前は柳生十兵衛三厳ヤギュウ・ジュウベエ・ミツヨシ。最後まで徳川幕府に忠誠を示し続け、弟を含む多くの柳生を屠った反逆者である。現代に蘇った彼は黒い長髪を後ろで結び、ハワイで浮かれて買ったアロハシャツに茶色の短パンを履いている。そして背には彼の代名詞である三池典太光世のツヴァイヘンダーが背負われている。

「説明し甲斐が無いな……まあとりあえず自動ドアを切り開いてくれよ」

 超々巨大商業施設『日本』に外から入ることは叶わない。柳生一族の鎖国政策により十年前からその自動ドアは閉ざされている。そしてその材質は緋緋色金であり、通常の兵器では物理的に破壊することは不可能だ。

 だが、もしも超一流の剣豪が、自動ドアと同じ材質の剣を振るったのならば?

 斬れないはずがない。

「切り開いた」

 十兵衛が三池典太光世ツヴァイヘンダーを振り下ろすと自動ドアには人間が一人通れる程度の長方形の穴が開いた。驚くべきことに十兵衛は一瞬で四回自動ドアを斬ったのだ。なんというワザマエか。

「では行こうか」

「全ての柳生を滅ぼしに」

 柳生死すべし。二人はその共通の目的で繋がれていた。


 


 

 

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