第2話

 四限終わりに学食に集合した秋斗あきと春樹はるきは、噂の探偵がいる場所へ向かった。大学の北門にある自動販売機の横に拠点きょてんがあるらしい。

 たどり着くと、『占いのやかた』と検索したら出てきそうな紫色のテントがあった。


 春樹はわくわくした様子で「おお~」と声を上げる。語尾にキラキラの絵文字が見えた気がした。彼は右手を秋斗の肩に回し、左手のこぶしを元気よくき上げる。

「よし、レッツゴ~」

 春樹が先陣せんじんを切った。


「お邪魔します」と言いながら、秋斗も中をのぞくと、正方形の机が一つと椅子が二つ。机の上に脚を乗せて腕を組み、寝ている女性がいた。彼女は秋斗たちに気づき、片目を開ける。


「ノックくらいしたらどうだね、新入生」

「あ! そうですよね、すみません」

 頭をかきながら咄嗟とっさに謝罪の言葉を口にする春樹。秋斗は即座そくざにツッコんだ。

「いや、ノックする扉がないんですけど」

 すると彼女は両目をぱっちりと開け、手を打つ。

「たしかに。君、かしこいな」


 なんなんだ、この人は。秋斗はちょっと面倒くさそうな香りを感じ、怪訝けげんな表情を浮かべた。


 それにしても、さっきから気になるものが視界に入っていて少々気が散る。女性の後ろには小さな女の子、肩には鳥、足元には犬、えない春樹は気づけないだろうが、秋斗にはわかる。

 それらはみんな、霊であると。


 *


「もうすぐ依頼人が来るんだけど、君たちはなに?」

 彼女が机から脚を下ろすと、春樹はすかさず彼女に近づいた。

「探偵がいるって聞いて、どんな人なんだろうな~って来ちゃいました」

 瞳を輝かせる春樹に対し、彼女は肩をすくめた。

「まあ大方おおかたそうだろうとは思った」

「なのでどんな感じで依頼を受けるのか見てみたいんです!」


 秋斗は頭をかかえた。頼む、勘弁かんべんしてくれ。

 その申し出には彼女もびっくりしたようで、目を丸くさせている。

「依頼人と話しているところを見たいということか?」

「簡単に言えばそうです!」


 苦笑にがわらいで彼女は秋斗に視線を向けた。どうにかしろ、ということだろう。

「春樹、見るだけだって言っただろ。もう帰るぞ」

 春樹の腕を引っ張るが、彼はピクリとも動かない。体幹たいかんが強すぎる。この細マッチョめ。

 そんなことをしていると、テントの外から声が聞こえた。


「すみません、予約していた原田はらだです」

 探偵はこめかみに指を当てると、「入っていいぞ」と外の人にこたえた。入って来たのは茶髪ボブの女性だった。彼女は秋斗と春樹を交互に見る。

「あ、あれ、時間間違えてました?」

 不安そうにスマホを確認する女性を、探偵は「時間ぴったりだ」と即答した。


「あの! 俺ら探偵さんに興味があるので、見学してもいいですか?」

 春樹はこの機会をのがすまいと、秋斗の手を振りほどき、依頼人の女性に向かって手を合わせた。のぞみが春樹のことをあざと男子としょうしていたが、こういうところか。少しだけ首をかしげて眉をハの字にしたその表情は、たしかにあざとい。


 めちゃくちゃな春樹に対し、なぜか探偵は大声で笑い始めた。

「くははっ、ド直球とはなかなかつわものだな!」と関心を示す。


 置いてけぼりの依頼人は困惑顔で秋斗たちを見回した。

「えっと、状況がよくわからないんですけど……別に大丈夫です」

「まじですか! やった!」

 春樹は笑顔で依頼人の手をにぎり、ぶんぶんと上下にふった。


 おかしい。絶対にこの状況はおかしい。なぜ部外者である自分たちがこの場にいてもいいのか。秋斗は心の中で希に助けを求めた。

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