第6話 探し人
「レン……庭師をしていた青年の様ですね。彼を探して、どうするというのですか?」
俺は自分の事は占う事が出来ず、縁が見えない。
それ故に占っている素振りをしながら探りを入れた。
お嬢様は何故俺を探しているんだ?
(まさか俺に恨み言を言う為に?)
あの野郎に肥料をぶちまけたのに後悔はないが、その賠償の為に思ったよりも多くの金を支払う事になったのだろうか。
(それともまさか……体を要求されたのではないか?!)
そうであれば刺し違えてでも殺してやる! 一人脳内で逆恨みの炎を燃やす。
「彼はとある事から私を庇ってくれて、その影響で仕事を辞めさせられてしまったのです。お父様に抗議したのですけれど、聞いてはくれなくて……すぐに探しに行こうと思ったのですが」
暫く屋敷から出る事を禁じられて出られなかったと、お嬢様は申し訳なさそうに説明してくれる。
俺のせいでそんな不自由を強いてしまったとは、とんだ迷惑をかけてしまった。
「なるほど。それで屋敷に閉じ込められる要因になった男に文句が言いたい、そう言う事ですね?」
「違います」
俺の憶測をお嬢様はバッサリと切った。
「そ、そうなのですか。だって庇ったとは言え、お客様はとばっちりでそのような目に合って、イライラしたりしたんじゃないですか?」
そう言うとお嬢様は少しムッとした声を出す。
「そんな事はあり得ません。文句どころか、お礼を言いたいのです。彼のお陰で私は婚約者の方からの無体を免れたのですから」
「……すみません」
余計な事を言って不愉快にさせてしまった事を謝る。
普段人の事が見れる分、自分の事となると俺の勘は鈍るようだ。
「いえ、私もきつい言い方をしてしまってすみませんでした。それで、彼は今どこにいるのでしょう」
「少々お待ちを」
そう言って俺は考えを巡らせた。
(お嬢様が俺に会ってお礼を言いたい? 嬉しい、怒ってなかった。けど……)
どう考えても俺とお嬢様が会うのは良い事ではない。
家長がクビにした使用人に無断で会いに行くなんて、いくらお嬢様でも怒られるだろうし、男の使用人と密会なんて、醜聞とされてしまうかもしれない。
それに婚約者の男にそんな事を知られたら、弱みとして何を言われるかわからないではないか。
(会わない方がいいのだろうけど、お嬢様の気持ちを思うとそんな事は言えない)
他の町に行ったと言えば諦めてはくれるだろうが、それではお嬢様の気持ちが晴れないだろう。
それならば会うのは最後として顔だけ見せてしまえばいいか。
いつ? どこで?
誰にも知られず、ひっそりと会えるような場所なんて俺は知らない。
誰かに聞けば教えてくれるだろうが、それだと俺の素性がバレてしまう。
応接室を借りるという手もあるが金もかかるし、結局お嬢様にバレるだろう。
そうなると――
「彼をここに連れて来ます」
ここで最後のお別れをすれば誰にも知られず、誰にもバレないと考えたのだ。
商業ギルドに登録している名前も、本来の自分とは違うものだし、万が一誰かに名前を呼ばれてもすぐにはわからないはずだ。
「今彼はこの街を離れ、別な仕事をしているようです。なのでお客様の都合の良い時にここに来てもらって、話をしてもらう。それでどうでしょう?」
「何故そのような回りくどい事をするのです? 場所を教えてもらえれば自分で会いに行きますが」
そう言われればそうだ。
お嬢様は探して欲しいと言っていたので、一回だけ会えば満足だとは言っていない。
「その、彼があなたに会うのは申し訳ないと思っているようでして……」
「彼の考えもわかるのですか?」
「多少は……」
身を乗り出して詰め寄られる。
仕切り越しとは言え、たじたじになってしまった。
「彼が悪いと思う事はないのに。お願い占い師さん、彼の居場所を教えてください。明日にでも会いに行きますので」
お嬢様の行動力には驚かされる。
(そう言えば俺を拾った時もごり押していたな)
あの父親相手にごねにごねて、俺を雇いたいと押していた。
お嬢様の剣幕、もといしつこさにご主人様は根負けしたのだ。
今回は被害を受けた令息がいたから押し通せなかったようだが、普段はこれだけ押しが強い。
「えー……レンさんは今住む場所がないらしいので、居場所を伝えるのは難しいです。俺が直接探して連れて来ますので、ここで会いましょう」
「住む場所もないなんて……わかりました。ここで待ちます」
そんな現況を聞きショックを受けて、冷静さを取り戻したのか、お嬢様は座り直してくれた。
住む場所がないのは本当の事だ。
「明日の同じ時間にここにいらして下さい。大丈夫、レンさんに必ず会わせてあげますから」
そう言って俺は少しお嬢様の手を両手で握った後に、離した。
帰りにならず者に襲われるという悪縁があったので、それら全て切り祓ってから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます