第6話 凱旋


カッソの中央にロール河という大河が流れています。殿下はその河口周辺の村や都市を手あたり次第、手にかけていく。一帯を焦土に変え、手に入れられるものが何もなくなると今度はロール河に沿って上流に向かいます。


その先は敵国カッソの王都アメデです。カッソの王バディスは慌てて王都アメデに軍を集めました。加えてサスリーに派遣していた軍三万を王都アメデに戻します。結果、サスリーは危機から脱したのです。


王都レノでは思わぬことに貴賤問わず誰もが喜んでいました。馬鹿とはさみは使いようと執政のゴドルフィン公を街中が褒め称えました。


殿下の軍はロール河から離れ、北上を開始しました。スサリーの状況は把握していました。本国への帰還です。


怒り心頭のバディス王はそれを許しません。サスリーから戻った兵三万に加え、自らの兵一万五千で殿下を追うのです。


カッソ軍の動きは速かった。軽装のクロスボウ兵に加えて全軍がほぼ騎兵だったこともあります。ですが、やはりバディス王が自ら馬を駆り、先陣を切ったのが大きかったと思います。


殿下の軍は重装歩兵が中心です。騎兵には速度でかないません。国境を越える前に山地帯でカッソ軍に補足されてしまいました。


王都レノでは、ブラッド王太子は終わったと囁かれました。大勢の人を殺し、悪事を働いた報いだとか、日頃からの常軌をいっした行動があだとなったとか。


王家の面汚しとか、死んでもないのに死んでくれて良かったとか。ゴドルフィン公にありがとうと言わなければならない、とまで陰口を叩かれる始末。


許せません。ケンドール先生は勝てるとおっしゃって下さいました。ですが、戦いに勝ったとしても、敵は四万五千の大軍。生きて帰って来られる保証がどこにあるのですか。


私の出来ることはただ祈るだけ。私の大切な人を奪わないでほしい。ダリルは私に手を差し伸べて下さいました。私はまだ、ダリルに何も出来ていないのです。





ブラッド王太子殿下は王都レノでの予想をいい意味でくつがえしました。凱旋がいせんしたのです。ケンドール先生のおっしゃった通り、戦いに勝った。それも快勝だった。一万の兵で四万五千を壊滅させ、バディス王をも捕虜にしたのです。


殿下は山を背にして陣を敷いたといいます。両翼にロングボウ兵を据え、中央に重装歩兵を並べました。そして、中央後ろに殿下自らが指揮する近衛騎士団五百。


陣の前はというと、山から切り出した木を使って杭を無数に打ち込みました。更にその前には落とし穴を幾つも掘ります。


対するカッソ軍は平野に展開し、クロスボウ兵六千を一列目、重装騎兵一万二千をそれぞれ二列目三列目に配置。四列目の一万五千をバディス王自らが率いたそうです。


殿下が敷いた陣形は守りに重点を置いたものです。相手が仕掛けて来なければ機能しない。それは見るからに分かりそうなものですが、バディス王は攻撃を仕掛けて来ました。


こちらが少数ということもあるのですが、やはり一番は殿下を許せないのです。


スサリーの攻城戦に参加した敵諸侯は、留守の間に領地を荒野に変えられました。バディス王も接近する殿下の軍に対応するため王都アメデに兵を集めなくてはならず、その間に王直轄地を殿下に蹂躙じゅうりんされていた。


工兵のベン・グットが良く働いたのでしょう。あまりにも良い仕事をしたので街や農地の回復は何年もかかると聞きました。


自軍にどんなに損害が出ようが、殿下を捕らえて八つ裂きにする。カッソ軍はそうしなければ気が収まらなかったのです。


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