決意新たに

「さぁ、裕子ちゃん。

 よくがんばったわね。

 じゃあお待ちかね、新しいオムツよ」


 この時、裕子はすでに抵抗する気力すら消えつつあった。

 

「リサちゃん。裕子ちゃんのおててを離してあげて」


「はい、先生」


「じゃあ裕子ちゃん。自分で両膝を抱えてね」


 これから何をさせられるかわからぬまま、裕子はおそるおそる指示に従う。




「こんなんじゃ、おむつが敷き込めないでしょ。

 もっと高く」


 少し苛ついたように裕子のふくらはぎをつかむと、そのまま上に押し上げた。


 その勢いにたまらず、裕子は両膝をかかえたまま後方宙返りするみたいに、お尻を天井に向けるようにコローンともんどりうった。

 裕子の形のいい臀部が大勢ちの前でむきだしになる。


「いやぁぁぁぁぁ!!」


 裕子の絞り出すような悲鳴が響き渡る。

 あまりのなりゆきに、先程までのざわめきも消え、固唾を呑んで裕子のあられもない姿を凝視している。


「やだぁぁぁ……やだぁぁ……こんなかっこうぅぅ!!」


 裕子はわめきながら、元の姿勢に戻ろうと懸命にもがき体を起こそうとする。

 だが、持ち上げたふくらはぎをおさえつけているため、それすらままならない。

 そればかりか、つかんだふくらはぎをそのまま左右に押し広げていく。

 たちまち裕子は足の裏を天井に向けたまま、まるでトイレでしゃがんだような恰好にされてしまった。


「やめてっ……やめてぇぇ!

 恥ずかしいぃぃ………」


 抵抗しようにも力がはいらない姿勢のまま。


 夫にも見せたこともないような、裕子のもっとも恥ずかしい部分がすべて、天井の方に向けてむき出しにされた。

 年長の子がベビーパウダーで白く覆っていく。




《これを…………実験の終わりまで続けるの?》




 浮かんだ疑問。

 そう言えば、期間を聞いていない。


 夫すらも触れさせたことのない部分が、大勢の歳下たちの前で、すべてむき出しにされているのだ。


 いくら粗相したからといって、こんな姿を、しかも入園式の壇上でする幼稚園があるなんて……



《でも三年……後三年……娘の小学校は?

 それより三年も……三年も私は幼稚園……?

 いやぁ!》




 裕子は必死に元の姿勢に戻ろうと抵抗を続けた。

 どんなにみじめな幼児扱いを受けようとも、美しい女性でありたいという裕子の本能がなせるものであった。

 25歳という若々しい女性にはあまりにも不似合いなオムツ。

 裕子の抵抗は、このいまわしい衣装をあてがわれようとも、大人としてのプライドを最後まで守ろうとする闘いでもあった。


 だが、裕子の最後の抵抗も次の瞬間、終止符を打たれた。


 パシーン!


 乾いた音が響き渡った。

 同時に


「ヒィィィぃっっ」


 裕子の悲鳴にも近い叫び声が耳に飛び込んでくる。

 尻を平手打ちする音だった。


 パシーン、パシーン。


 平手打ちは間髪いれず、容赦なく続いた。



「裕子ちゃん、いい加減にしなさい。

 これがオムツを替えてもらう人の態度ですか!」


 先生の怒号が飛ぶ。


「ごっ……ゴメンなさい…………」


 あまりの激痛に顔をゆがめながら、裕子は懸命に許しを乞う。


「こんな溢れるまでオモラシして……おトイレ言えてたら、こんなことにならなかったんじゃないの?」


 パシーン。

 再び平手打ちが飛ぶ。


「ウゥゥ……ゆ…………許して…………」


 だが容赦しなかった。


「だれも好きであなたのよごれたオムツを替えてるんじゃないんですよ。

 それなのに手をわずらわすことばかしして……」


 パシーン、パシーン……


「ヒィィっっ、いたぁっ」


「痛いのがいやだったら、ひざをかかえたまま脚を開きなさい」


 再び腕を高く振り上げる。


「あぁ待って……ひらきます。

 ひらきます……」


 あまりの激痛に堪えきれず、裕子はひざをかかえたまま、おずおずと股を開いた。

 それも秘部を天井の方に向けた、あられもない姿のままである。


「そうそう、オムツ替えのときはこの恰好をするように。

 わかった?!」


「………………」


 若き女性が口にするだけでも恥ずかしい言葉をつきつけられ、裕子の顔はもう真っ赤であった。

 それでなくても、膝を抱えての大股開きだけでも屈辱的ともいえる恰好である。

 とても返事などできるものではない。


 だがそんな裕子の気持ちを逆なでするかのように、さらに追い打ちをかける。


「最初からこの恰好をしてりゃあ、オサルさんみたいにお尻を真っ赤っ赤に腫らさずにすんだのに」


 皮肉混じりにそう口にすると、裕子の柔らかい、尻たぼをそっと撫で上げた。

 夫以外、誰にも見せたことすらない部分を同性に触れられ、裕子の全身に鳥肌がたった。

 平手打ちのせいで、裕子の引き締まったお尻は真っ赤に腫れあがっている。


「ふふふっ、イタズラしてママに折檻された幼児のお尻って感じね」





 《卒園まで…………娘のためだから…………》




 めくるめく羞恥で麻痺しかけた頭の中で、この言葉だけが明瞭に浮かび上がってきた。




「さっ、裕子ちゃんにおむつ、敷きこんで」


「――」


 ◯◯は無理やり膝をかかえさせられ浮いたお尻の下に、新しいおむつを敷きこんだ。


「ほら、ちゃんと覚えるのよ。

 お家だと、おむつを替えてあげられるの◯◯ちゃんだけなんだから」


「――」


 裕子の耳に、何かが聞こえる。


「さっ、裕子ちゃん。

 お尻はおろしてもいいわ。

 でもお膝はかかえて広げたままよ」


 まるでちっちゃい幼児にいい諭すように、裕子に声を掛ける。


(あぁ、またオムツされるんだ……

 赤ちゃんみたいに…………

 それも娘が見ている前で…………)


 ここでオムツを拒否すれば、この幼稚園から娘は追い出される。

 借金を返す当てもなくなる。


 おむつをあてられるしかないのだ。

 裕子は観念したように目を閉じた。


「――」


 ◯◯は敷いたオムツを手に取ると、天井に向かっていったん引っぱり上げ、そのまま臀部から股間、おへそまで包むように当てていく。


「裕子ちゃん、なんとか言ったらどうかしら。

 せっかく◯◯ちゃんが当ててくれているのよ」





 ビッ……ビッ……




 テープが貼られる、強く締め付ける為の、こすれる音が響く。


 今日で一回目。

 これから、毎日これが続く。


 意図的に失態を繰り返し、成長せず何度もしくじらねばならない。


 25歳、一時の母がだ。


 これを加速させる、利尿剤と多量の飲水。

 まだ、二度目の服用すらしていない。

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