決意

「借金8,000万!?

 そんなの知らないわ! 私は何も借りていない!」


「ここに証拠の契約書がある。

 早崎裕子(はやさき ゆうこ)。 お前の夫だろう?」


 目もくらむような莫大過ぎる借金。

 信じ難いが、夫の物だった。


 私の夫は、一週間前に葬儀を終えた。

 交通事故だった。


 夫は会社を運営しており、それを引き継いだところ、顕になった多額の借金と事業不審。

 とてもではないが捌ききれず、即刻倒産させたのだった。


 だがこれは、夫個人名義で借りていたものであった。

 会社の名で契約できなくなり、遂に個人で借金していたのだ。


 そして、私はその連帯保証人になっていた。






「お母さん……? どうしたの……?」


 この子は「早崎リサ」。 3歳。

 私の……私達の一人娘だ。



「……大丈夫よ。お母さんに任せて」

「う……うん……」


 そう、私には、この子がいるのだ。

 後ろ向きでは居られない。 私がなんとかしなければならないのだ。




 だが、決意だけでは世間には通用しなかった。

 学生結婚した私は、大学を卒業しそのまま専業主婦であった。


 勤めた経験など、夫の会社を倒産させるまでの僅かな期間……勤めた内になど入らない。

 先日は……そのあまりの内容から一日で退店してしまった店があった。



 そして問題なのが、「リサ」だった。




 近年の待機児童問題に、この子も直面していた。

 私達は都心に住んでおり、どこにも入園させることが出来ないままに3月を迎えていた。


 つまり、働いている間にこの子を預ける先がないのだ。





 だが、私はまだ運に見放されていなかったのだ。

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