第一部

「カンザキ、飛べよ!」


 俺は今、絶体絶命の窮地に追い込まれている。


 ここは学校の屋上。

 飛び下り防止のための金網越しに、三人組の不良たちが下卑た笑いを散らしている。


 もう察しがつくだろう。

 俺はいじめられている。


 貧弱な身体、根暗な性格。

 別段やつらの気に障るようなことをしたつもりはないが、俺はどうにもいじめられる要素を満たしてしまっているらしい。

 ただ存在するだけで虐げられる運命のようだ。


 いじめのことを教師に相談したこともある。

 だが、抵抗の意志を見せろ、殴られたら殴り返せばいい、とかなんとか言って解決してくれようとはしない。


 そんな勇気、俺にはない。

 俺はただ、救いがほしかっただけなんだ。

 言葉でもいい、慰めがほしかっただけなんだ。


 見下ろすと、何もない冷たそうな地面がのさばっている。


 風が頬を撫でる。


 不意に全てがどうでもよくなってしまった。

 電気のブレーカーでも落とされたかのように、気力という気力が消え失せてしまった。


 どうせ、これ以上生きていてもいいことなんて一つもない。

 別にやりたいこともない。

 だったら、死んだっていいんじゃないか。

 こんなくだらない人生を終わらせたって構わないし、誰も困らない。


「こんな世界、なくなってしまえばいいのに」


 小さく呟き、金網から手を離す。

 身体の重心がゆっくりと沈み、足場がなくなる。

 瞬間、冷や汗とも脂汗ともつかぬ水分が背中から湧き出してくる。


 俺は悟った。

 走馬灯なんてない。

 死ぬ時は一瞬だ。


 天地がひっくり返ったかのごとき衝撃。


 俺の意識はブラックアウトした。

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