第19話 魔術石を試そう①

「協力……ですか?」


 俺の申し出に対して、雫は小首を傾げながらそう尋ねてきた。


「ああ、実は探索者ギルドに売るための魔道具を作ったんだが、実際に誰かが使ってみた時のサンプルが欲しいと思ってたんだ。それに協力してもらえたら俺としてはかなり助かる」

「わ、分かりました。そういうことなら、私が蓮夜さんをお手伝いします!」


 胸の前で両手を握り、ふんすとやる気に満ちた様子の雫。

 その後ろでは優斗と緋村の2人が、顔を近づけてコソコソと何かを話していた。


「おい、今こいつ、魔道具を自分で作ったって言ったか? んなもん作れるの、Aランク以上だけのはずじゃ……」

「やめておけ、蓮夜に関しては考えるだけ無駄だ」


 何やら失礼なことを言われた気がするが、俺は寛大なので特に気にしないでおく。


 さて、これで無事に協力者を得ることができた。

 後はどこで実験をするかだが……


 俺が作った魔道具には、例外なく全てに火魔術が付与されている。

 となると、火を苦手とするモンスターを相手にした方が効果は分かりやすいか。


「よし、決まりだな」

「蓮夜さん?」


 俺は隠しエリアへと続く穴に向かいながら、雫たちに向かって告げた。


「せっかくの機会だ。3人にも隠しエリアを案内してやる」



 ――【エルトール中級ダンジョン 隠しエリア:氷風ひょうふう雪原せつげん】――



「すげぇ、この真っ白なのが全部雪なのかよ!」

「まさかダンジョン内でこんな光景を見るとはね」

「なんだか、すごく幻想的……」


 数分で戻ってきた俺とは違い、3人は初めて足を踏み入れたフィールド型エリアにテンションが上がっている様子だった。

 その証拠に、全員の体が興奮で小刻みに震えて――


「で、でも、この寒さだけはなんとかなんねえのか?」

「モンスターと戦う以前に、凍え死にそうだ」

「あれ、不思議。なんだか雪原の中にお花畑が見えてきたよ……」


 ――違った、寒さで震えているだけだった。

 雫に至っては、何か見えてはいけないものが見える段階までいっている。


 仕方ない。

 このままじゃ、協力以前の問題だからな。


「術式変換・並列発動――【纏炎てんえん】」

「えっ? わぁ、すごくあったかい……」


 俺も含めて4人分の纏炎を発動し、この極寒の地でも普段通りに活動できるように援護する。

 雫も無事、三途の川から戻ってこれたみたいで何よりだ。


「おい、当たり前のように術式を並列発動したぞ」

「しかも何の苦も無く、他人に補助魔術を付与したな」

「……まっ、考えるだけ無駄か」

「……ああ、そうだな」


 考えることを放棄したこのように、優斗と緋村が雪原せつげんをバックに「あったかいな~」「そうだな~」とじゃれあう中、雫が楽し気に駆け寄ってくる。


「蓮夜さん。これ、すごく便利な魔術ですね。実は蓮夜さんに頂いた魔導書を使って火の魔術適性を手に入れてから色々と調べたりしてるんですが、どこにもこんな魔術載ってませんでしたよ!」

「まあ、これは俺のオリジナル魔術だからな」

「お、オリジナル……」


 目を見開きながら、突然その場で立ち止まる雫。

 しかし数秒も待つと、何かに対して呆れたような表情を浮かべながら、再び歩き始めた。


「それで、私に魔道具を使ってほしいということでしたが、具体的には何をすればいいんですか?」

「簡単だ、ただモンスターめがけてこの魔道具を発動してくれればいい。中には攻撃魔術が付与されてるから、それを放ってくれればいい」

「わ、分かりました。魔道具はあまり使ったことがないですが、頑張ります!」


 やる気十分な、良い返事を返してくれる雫。

 その後、魔道具を発動するコツについて教えながら歩いていると、突如としてそれ・・は現れた。



『グォォォォォオオオオオオオオオオ!!!』



 耳をつんざくような叫び声とともに現れたのは、氷の鎧に守られた巨人――アイスゴーレムだった。

 だけど、よく見てみるとどこか様子がおかしい。

 具体的にいうと、通常のアイスゴーレムよりだいぶサイズが大きい。


「うそ!? ギガアイスゴーレム……討伐推奨レベル50!?」


 疑問に思う俺の横で、鑑定を使ったのであろう雫が敵の情報を口にする。

 やはり普通のアイスゴーレムより二回りほど強力な個体みたいだ。

 レベルだけなら、ちょうど炎の獅子イグニス・レオ凍結竜アイスバーンドレイクの間ってところか。


 などと冷静に分析していると、雫が俺の腕を掴みぶんぶんと振ってくる。


「れ、蓮夜さん! 隠しエリアに出てくるモンスターって、ここまで強いものなんですか?」

「いや、ボス以外はここまでじゃないぞ。あれは強化個体だな」

「強化個体……ですか?」


 強化個体とは、他のモンスターの魔石を食べたり、特殊な魔力を浴びるなどして通常より強力になっている個体のことだ。

 それを説明すると、雫だけでなく優斗たちも驚愕した表情になる。


「おい、それってまずいんじゃないか?」

「ああ、炎の獅子イグニス・レオに苦戦した俺たちに勝てる相手じゃない。早く撤退すべきだ」

「蓮夜さん……」


 撤退を提案する優斗たちと、不安げな表情で選択を俺に委ねる雫。

 そんな中、俺が考えていることは彼らとは全く違った。


「よし、いい実験台になりそうだな! 雫、始めるぞ!」

「え、ええっ!?」


 驚きの声を上げる雫に、俺は続けて言う。


「協力してくれるんじゃなかったのか?」

「い、言いましたけどそれは時と場合によるというか、私が魔道具を使ったところであんな強いモンスターには通用しませんよ!?」

「まあまあ、ものは試しだ。ほら、せっかくだから最大火力のやつを使ってくれ」


 そう言って俺は、超越せし炎槍アルス・フレイムが込められた魔術石を雫に手渡した。


 雫はそれを受け取った後、しばらく混乱した様子だったが、やがて覚悟を決めた顔つきに代わる。


「わ、分かりました、やってみます。だけどこれでどうなっても知りませんからね!」

「がんばれー」

「か、軽い……」


 何かを呟きながら、雫はギガアイスゴーレムに向き直る。

 そうこうしているうちに、敵は20メートルほど先までやってきていた。


 そんなアイスゴーレムを前にして、雫はブツブツと何かを呟く。


「あんなモンスター相手に魔道具一つでなんとかできるわけないけど、これは蓮夜さんが作ったもの。倒せないにしても、あの鎧に少しダメージを入れることくらいならできるかも。そこまで試せたら、後はきっと蓮夜さんが全部なんとかしてくれるはず……うん、きっとそう! そうに決まってる! ……ほんとかなぁ?」


 どうにか自分で自分を説得したらしい雫は、まっすぐギガアイスゴーレムを見据え、魔道具を持った両手を前に突き出した。


「魔力注入!」


 雫が魔道具に魔力を注ぐと、それに応じて前方に巨大な赤の術式が展開される。

 そして――


「いっけぇぇぇえええええ!」


 雫の叫びと共に術式が解放され、巨大な炎の槍が解き放たれた。

 轟音を鳴らしながら突き進んでいくその大槍は、そのままギガアイスゴーレムに直撃し――



 ドゴォォォオオオオオン! 



『グルォォォオオオオオ!?!?!?』


 直後、盛大な爆発音とギガアイスゴーレムの断末魔が雪原に響き渡る。

 炎の槍は軽々とギガアイスゴーレムの装甲を溶かし、その巨体を貫いていった。


「うん、うまくいったな」


 バタン、と。その場に倒れていくギガアイスゴーレム。

 それを見て魔道具の威力に満足する俺に対して、雫たちはしばらくの間、間抜けな表情で無言を貫いていた。

 その数秒後――



「「「は、はああああああああああああああああ!?」」」



 なぜか突然、ギガアイスゴーレムに追随するように叫び声を上げる3人。

 この世には変わった奴らもいるもんだなぁと、俺はしみじみそう思うのだった。



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