第3話 無敵を作ってしまった女、紗央莉


 史佳の騒動が落ち着いて3ヶ月が過ぎた。

 予想通りバカ猿満夫は史佳だけじゃなく、同様の手口を使い、大勢の女を堕としていたので、奴は捕まった。


「本当のバカだったわね」


 パソコンがウィルスにヤられた位で警察に駆け込むなんて、自分が犯罪を犯してる自覚が無かったの?

 バカの脳内は私の理解を越えていた。


 バカの逮捕は周囲を巻き込み、同様の罪で数人の男達が芋づる式に捕まる結果となった。

 幾つかのサークルが潰れ、何人かの人間が大学を去ってしまい、大混乱となったが、本当にこの学校は大丈夫なんだろうか?

 これでも学力は高くて、名前も知られた大学だった筈なのだが...


「...ふう」


 深夜一人、パソコンの画面に向かい、作業を進める。

 この2年、私にとって週に一回必ず行っている大事な作業...


「またアップされてたか...」


 パソコンのモニターに映るのは、幾つかの掲示板に書かれた亮二のやらかした行状と、行方を探して欲しいというお願い、そして彼の写真。

 何度消しても直ぐに載せて来る奴等は本当にしつこい。


 犯人は分かっている、どうせ亮二の元カノ達の仕業だろう。

 女を特定したら、元から潰せるのだが、いかんせん人数が多い。

 そして探し出す手間と労力も膨大だ。


「...とりあえず、この辺の写真にしよう」


 適当な男の写真を亮二の写真とすり替える。

 プライバシーの侵害にならない様に、男達の写真には一部加工をして架空の人間にするのも忘れない。


「...全く、亮二は何人の女を狂わせたのかしら?」


 4年前に私と別れた後、亮二は何人の女と付き合って来たのだ?

 この二年は史佳だけと言っていたから、高校の二年間で彼女を作りまくったの?

 亮二は教えてくれないが...


「女達の気持ちも分かるんだよね」


 去年大学で再会した亮二は、目立たない服装と髪型をしていて、最初は誰か分からなかった。

 容姿に優れ、人気者だった亮二なのに、出来るだけ人と関わるのを避けていた。


 私が海外の大学から日本の大学に編入したのは亮二と再会する為。

 両親は卒業まで現地に残っても良いと言ったが、それは出来なかった。


 私は父親の海外転勤で、4年間付き合った亮二と離れ離れになってしまったんだ。


『ずっと一緒だよ』

 私は亮二と誓い合ったが、所詮は十代の青臭い恋愛。

 半年が過ぎた頃から私は亮二に連絡する事が減り始め、やがて途絶えがちになってしまった。


 誓って言うが、浮気とかではない。

 ただ新しい環境に慣れるのに必死で、亮二の事を構ってあげられなかった。


[紗央莉、別れよう]


 1年後、私の携帯に届いた亮二からのライン。

 私は慌てて電話をした。


『ちょっと亮二、どういうつもり!!』

 ワンコールで出た亮二に叫んだ。


『そのままだよ、別れて欲しい』


『なんで!私は今も亮二の事が...』

『好きなんて言うなよ』


『...え?』


 底冷えするような亮二の声に怯んでしまった。


『去年のクリスマスプレゼント、俺はちゃんと送ったよな?』


『...うん』


 確かに受け取っていた、お気に入りだった日本のお菓子や、ぬいぐるみを。


『お前は何をくれた?』


『...えっと』


『クリスマスカード一枚だ、メリークリスマスのメッセージだけお前の字で後は印刷のな』


『いや...こっちのクリスマスは日本と違って準備が忙しくて』

 言い訳をする背中に汗が滲んだ。


『ずっと忙しかったのか?

 4ヶ月前の俺の誕生日もラインの[おめでとう]メッセージだけだったじゃないか、これで恋人って言えるのか?』


『ちょっと待って...これからはちゃんと』


『もういい、終わりだよ。

 俺を好きって言ってくれる人が居るんだ』


 私の言葉が終わらない内に亮二の電話が切れてしまった。

 正に自業自得、亮二を...恋人の好意に甘え、自分勝手に振る舞った結果がこれだった。


 ...それからが地獄だった。

 募る寂しさ、亮二には通話もラインすら拒否されてしまった。

 手紙も書いた、心から謝罪の言葉を込めて何通も、何通も...全て開封されないまま私の元に戻って来た。


『...もう亮二は忘れよう』


 別に嫌いになったんじゃない、気持ちがスレ違ってしまっただけ。

 3ヶ月後、私は亮二の家に手紙を書いた。

 封筒では開封して 貰えないので、ハガキの裏に短く一言[今までありがとう、新しい恋人と幸せに。さようなら]そう添えて。


 亮二と別れて半年後、私は新しい恋人を作った。

 それまでに何人かの男性に告白をされていたので、その中から一人を選んだ。

 別れの寂しさを紛らわせる意味もあった。


「...でもダメだった」


 交際が進むと、どうしても身体の関係に繋がってしまう。

 私だって性欲は有る、亮二と別れて約2年近く、一度もセックスをしてなかった。


 その男性と良い雰囲気になって、ベッドに倒された。

 高鳴る胸の期待は直ぐ失望へと変わった。


『...なにこれ?』


 男のキスに全く興奮を覚えなかった。

 その人は私と同じ日本人の留学生で、一緒の高校に通うクラスメート、ハンサムでガールフレンドも沢山いて、キスも手慣れていると思っていたのに。


『ち...ちょっと』


 一人で興奮する彼が私の服を脱がし始めた。

 こっちの炎は燃えるどころか、完全に燻ってしまっていた。


 ...亮二と全く違う

 なんだか笑えて来てしまった。

 そう...私と亮二が初めてキスをした時、あのトキメキと違い過ぎたのだ。


(...そういえば初めて同士だった私達は必死だったな)

 その時、私が男に身体を撫で回されながら、考えていたのは亮二としたセックスの記憶だった。

 どうすれば私が気持ちよくなるか、亮二は一生懸命で...


『止めて!』

 気づけば私は男を突き飛ばしていた。


『ここまで来て止められるか!』

 当然男は止まらない、血走った目で私を睨んだ。


『大丈夫...直ぐに気持ち良くなるさ』

 男の言葉におぞけが走った。

 亮二は絶対にこんなふざけた事は言わなかった、いつも私を大切にしてくれていたんだ。


『...さあ』

 そして来てしまったのだ、奴は自分のモノち◯こを私に...


『...なにそれ?』


『な...』

 男の粗末なマドラーチン◯に恐怖が退いて行く、私が知る亮二のそれオロチと全く違っていた。


『おい...おかしくなったのか?』


『ううん...だって...凄く...小さ...可愛いから』


『な....なんだと!ふざけんな!!

 俺は人より大きいんだぞ!』


『嘘...半分も無いよ...太さだってストローみたいに細くて...』


『アアアア!止めろ!!』

 男は叫びながら服を掴んで部屋を出て行った。

 一人取り残された部屋で私はようやく気づいた。


『亮二って凄かったんだ..』

 以来、私は誰とも付き合う事は無かった。

 そして二年後、私は父親の転勤が終わり日本に戻って来た。

 事前に調べあげた、亮二の通う大学への編入を決めて...

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