第3話

「今回は、俺の誤算によって迷惑をかけた。申し訳ない」

「ジャックさん……?」


 急な謝罪に、アリス以外の一同からはどよめきが起こる。


「なので、この任務はこいつに全部任せようと思う」


 そう言ってジャックは俺に視線を向ける。


 ん……!? そんな話は一言も聞いてないっていうか、俺はただ助言をしただけで……!?


 だがもう状況は出来上がってしまった。これはやるしかない。


 俺は覚悟を決めてジャックの代わりに前に立った。


「コードネーム《紫電》、イオリだ。よろしく頼む。年はそう変わらないのでタメ口で構わない。この任務は今後の情勢を変えるかもしれない任務だ。気を引き締めて、精一杯やろう」


 そう挨拶し、反応を見るに受け入れられているような感覚があった。


「早速、今回の計画だが……大きな流れは変えない。変更は俺やアリスが入ったことによる変更だけだ」


 なのになんでジャックは今回の指揮を降りたのか全くわからない。


「侵入経路は全部で四つ。なので、この八人を四つに分ける」

「それだと、元の計画にあった正面はどうするの?」

「その点は問題ない。もう準備は済ませてきた」


 シュガーの疑問はとっくに解決していた。元の計画だと、正面で爆発を起こしてそれを合図に他の部隊が侵入する流れだった。だが俺の作戦では遠隔で爆弾を操作することによって人員を侵入の方に向け、もう一つ見出した経路からも侵入しようと考えていた。


 それを説明すると、シュガーは納得した様子だった。


「組み分けだが、Aがジャックとマリア、Bがラヴィとシュガー、Cがライトとアルト、Dが俺とアリス……っていうのにしようと思う」

「えっ……」

「どうした? ライト」

「僕が……アルトと……」

「ああ。色々考えたが、これが一番いいだろう」


 ただ、ライトの言いたいことはわかる。わざわざ協調性が不安と書かれるくらいの人間と二人で組むなんて不安しかない。だが、ライトなら上手くやれると思った。


 むしろ、ライトじゃなければ、自分のことに精一杯になってアルトのことまで気にすることができない。


 ライトはこの班の中では実戦経験が豊富な方で、そういう面では支えないといけない。それはわかっているはずだが……おそらく書かれていたプレッシャーに弱いというのはこういうプレッシャーがかけられ続けたからなのだろう。だがこのプレッシャーに打ち勝てない限り、スパイとしてやっていけない。克服しないといけないし、俺はできると思っている。


 他の理由はマリアの戦闘力を考えてジャックと組ませて、オールラウンダー同士戦いやすいだろうと思ってラヴィとシュガーを組ませた。俺は一応怪我明けなのでアリスと組むことにした。順当だったと思う。


「僕は……イオリみたいに実力があるわけじゃない。ただ、小さい頃から現場にいたってだけ。そんな僕に、班を支えられる力なんてない。でも、僕がその役割をしなきゃいけない。でも……!」

「失敗するのが怖いか?」


 ライトは小さく頷いた。


「そっか。……大丈夫。ライトは自分が思うほど弱くない。俺と過ごしたあの日々だけでも、相当な経験を得ているはずだ。その経験があれば、十分班を支えられる。それに、俺がいれば失敗なんてしない。責任は俺が負う。ついてこい」

「イオリ……」


 少し格好つけて言ってみた。こうでも言わないと、ライトは押しつぶされてしまうだろう。


 プレッシャーには耐えられない。ならそのプレッシャーを無くしてあげるしかない。俺だって責任取るのは嫌いだけど、結局この任務が失敗した時のしわ寄せは俺に来る。責任を負うようなものだろう。俺が死んだときは別だが、俺が死んだら責任も取れない。


「じゃあ、その計画で行く。それぞれ同じ場所に向かっているのでどこかで合流することになる。互いに助け合って、どうにか中央にある塔で資料を探す。帰りはその都度指示する」


 他のペアに問題はないようだった。あとはそれぞれの実力次第。俺はもう、信じるしかない。


 コードネーム《紫電》。光速で、全てを終わらせる――


「……行くぞ」

「おーっ!」

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