第19話 嘘

「―断てアポロトス―」


 “語り手”は咄嗟に自身の“権限”を使用する。

 完全なミスとしか言い様がない。ミカエルの固有式が分からない地点で避けるべきであった。


「残念だが、決めるのは俺ではないが。」


「―神間居太刀かまいたち―」


 “語り手”に飛んでくる複数の斬撃。放ったのは扇雪みゆき


「なっ...。」


 “語り手”の目に動揺が浮かぶ。理解できないミカエルの“固有式”、使用されるとは思っていなかった、いや、扇雪みゆきが使用するはずのない斬撃。それだけでは、“語り手”を動揺させるには足らない。


「なるほどね。私がここに来てしまったのは...、まあ、いいわ。


―“反転リバース”―」


 黒髪と身長という点を除けば扇雪みゆきと見た目が同じな少女。


 “語り手”にとって厄介な“魔女”。


 ―呪禍の魔女アナテマ


 あり得ない。居るはずのない。だが、それが真実である。


-----------------


 反転


 血


 絶対零度


 全知


 泡沫


 生き残った数少ない“魔女”達の魔法。


 占星術ではない魔法。それは呪術とその根源たる契約、エルフの秘術“精霊術”、そして“権限”と同じく神代の代物。


「“代行者”を殺すには必ず一人必要な訳だ。ワハハ。」


 “朱雀”は高笑いをしながら扇雪みゆき達を眺めている。


「まあ、今回は3人がかりなわけだから、勝てない方が問題なんだが...。偶然かは分からないがヴァ...いや、ジャッ...でもなくてラスプーチンは現在足止め中。」


 “朱雀”は後ろを向く。そこには、これと言った特徴の無い黒髪の男が立っていた。挙げるとすれば、日傘をさしていることだろうか。

 とはいえ、この男が街中で歩いていたとして、果たして何人の人間が占星術師として気づくのか疑問ではある。


「で、場違いな僕が何故ここに?」


 男は“朱雀”をまるで眩しいものを見るかのような目で見ている。


「お前。ほんとに女の前になると口調が変わるな~。」


「すみませんね。昔からそういうものでして。」


「まあ。いいんだが。さて、お前にはあっちの対処をしてもらうからな。」


「...いいでしょう。報酬は?」


「ったく。御井みいの奴は金にがめついな。」


「仕事には相応の対価が必要でしょう。それが金なだけです。我々は御四卿になを連ねているとはいえ、幸徳井、倉橋、白川に比べると弱い。所詮は地獄の門番ですから。」


「ふ~ん。どうでいい話だが。財宝ならいくらでもあるからな。」


「きちんと換金しといてくださいよ。もちろんドルでね。」


「...ちっ。まあいい。俺様は寛大だからな。」


「...まさか。やり方が分からないとか....。」


「んな訳ねーだろ。灰になりたいのか?」


「...まだ、死にたくない人間でしてね...。」


「んなら。黙って仕事をしてこい。御井みい家最高戦力“寒芍”筆頭、御井みい深雪みゆき。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る