第17話 三②

「一つだけ、“代行者”は“十二のクレービス”を狙っているが今回は協力した方がいい。」

「あ?どいうことだ。」


 扇雪みゆきは首を傾げる。


「それは...。」


 ミカエルが口を開くと同時に脳天を撃ち抜かれた。


「んあ?」


 扇雪は弾が発射されたであろう方向を見る。


「ったく。もう一人かよ...。」


 黒のロングコートに右目に眼帯をした男。

 白銀の長い銃身の拳銃。


 数少ない占星術師達の間で、男は“語り手”と呼ばれている人間である。だが、扇雪みゆきは知らない。ゆえに思考が一時的に“語り手”の特定に使われることになる。


「だっ...。」


 咄嗟に扇雪みゆきの体が動いていた。


「なるほどな。それが、お前の“固有式”か...。」


 “語り手”の呟きが扇雪みゆきの耳に消えた瞬間、扇雪みゆきは飛ばされた。


「がっ...。」


「女子供は攻撃したくないんだが...」


「...ったく、それなら殴るなよ。」


 “語り手”の拳銃と扇雪みゆきの刀がぶつかる。


「面白い刀だな...」


 扇雪みゆきの刀はいつもの“霜零”ではない。


 光に当てられ刀身は薄い紫色に輝いている。扇雪みゆきの固有式の具現。それがこの刀。


「くそが。」


「だが、俺には勝てない。それが運命だ。」


 仕組みが分からない。

 扇雪みゆきは固有式をうまく使用できない。使用する以前の問題にされているの程度の事しか分からない。


「―断てアポロトス―」


「―っ!?」


 錬金術すらも防がれた。


 扇雪は数少ない錬金術の才能を持った人間であった。


 しかし、彼女の特徴的なのは錬金術を使用できることではなく、錬金術を使用できない点にある。


「構築ではなく分解。式構築自体が早すぎるがゆえにそこら辺の汎用式では効果が薄れてしまう。あちらの世界であれば重宝された才能だな。」


 “語り手”は扇雪みゆきの使用する錬金術のシステムを見ただけで言い当てた。


「―術式コード構築―氷花スネッグ


 宙を舞った扇雪みゆきを畳みかけるように周囲に氷の花が咲き、一拍おいて氷柱が扇雪みゆきを貫く。


「まあ、これで...。」


 “語り手”は拳銃を扇雪みゆきに向ける。そして、引き金をひ...


「さて、どうだった。“語り手”?」


「あ?」


 “語り手”の後ろに立つミカエル。


「俺はお前に一度も“固有式”を伝えてないからな。とはいえ、後ろを見ない方がいいぞ。」


 “語り手”は後ろから来る殺気に反応するがよけきれない。


「―祓い奉れ―」


「!?」


 “語り手”は戦闘という面だけを見ればどうにかできた。だが、占星術師の戦闘という面では反応が遅れてしまった。


 扇雪みゆきの固有式。その具現化である妖刀が解放される。


「ヒヒヒ。久しぶりに楽しませてくれよ。なあ、


―“幽月ゆうげつ”―」

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