第4話 船①

「んで。これは、どういう状況だ?」

「まま、そんな顔をしなさんな。扇雪みゆき殿。」


 かずらと別れた扇雪みゆきは聖都に向かうために船に乗っていた。そして、自身の仲間と合流したのだが、


「何で豪華客船なんだ?」


 扇雪みゆきがかずらより渡された紙に書かれた船は豪華客船であった。しかも案内された部屋は一等室。

 個室があることはありがたいが、ここまでの部屋となると扇雪みゆきとしては逆に嫌悪感まで感じてしまう。


「別にいいじゃありませんか。滅多に乗れるもんじゃありませんよ。」


 扇雪みゆきの横に立つおかっぱの少女。帝国陸軍の軍服を身にまとい、腰には刀を帯びている。

 少女の名前は柳生やぎゅう但馬守たじまのかみ但馬守たじまのかみというのは本名ではなく通り名に近い。そして、彼女は扇雪みゆきが信頼する数少ない商売仲間である。


「いや、ここまでだと逆にいやだな。」

「確かにそうですな。豪華過ぎるとでもいったところでしょうな。」

「まあ、後は...。」


 二人は現在、豪華客船のパーティー会場にいた。この客船では連日のように豪商や貴族、成金などが会場を利用してパーティーを開いていた。もはや、連日のように行われているがために主催者が誰なのか分からず、招待された者も分からない。故に、多くの占星術師が紛れ込んでいた。


「ふふふ。あそこにいる少女はドイツ騎士団のクールル=キーン。聖剣保有者の一人だよ。」


 指が指し示した先には金髪縦ロールの少女がおり、2人は「へぇ~。彼女が。」といったような顔持ちで見るが、


「おい、お前。誰だ?」


 2人の後ろには黒髪の少女が一人立っていた。2人は一瞬警戒するが


「すまない。すまない。驚かせるつもりはなかったんだ。」


 少女の声を聞くと不思議なことに警戒心が弱くなる。


「僕は情報屋。まだ、駆け出しだけどね。」

「なるほど。で、駆け出し情報屋さんが何か用か?」

「顧客ゲットのための宣伝さ。」

「...。」


 占星術師達の間で情報は非常に重要なものである。故に、タダで教えるということはそうそうないのだが、少女の場合駆け出しのため普通の商売と一緒にしてしまっているのだろうと2人は思う。


「後、あそこにいる日本軍人は相馬そうま五六ハいろは。あれは東方騎士団の第2席“残響”のマナセだよ。あれは“円卓”のまとめ役ミカゲ=ハーミスト。大物だね。貴族の護衛かな。何かな。」


 少女はペラペラと情報を喋るとその内「今度からひいきにしてね。」と言い残しどこかに去っていった。人名や所属は教えたものの肝心な情報は曖昧にしている点は情報屋としては優秀なのだろうと2人は思うが、もしかしたら駆け出しのため知らないのかもしれない。


「そもそもこの情報はあってんのか?」

「それは疑問ですな。」


 扇雪みゆき但馬守たじまのかみも優秀な占星術師であるが、情報には疎い。特に、扇雪みゆきは占星術以外の情報に疎い。となると、最悪嘘の情報の可能性も出てくる。


(何故、今までの間に疑問に思わなかった?)


 扇雪みゆきは少し考え込む。彼女が駆け出しの情報屋であればまず情報の精度を疑うべきであった。


「それは彼女の能力が原因ね。」

「「!?」」


 二人は声から咄嗟に距離をとる。この会場は格式のあるパーティーというわけでもないので二人の行動を疑問に思う者はほとんどいない。


「ひどいわね。上海では一緒に戦った仲じゃない。」


 2人の目の前に立つ少女。扇雪みゆきと同じようなゴシック調の服に身を包み黒髪と身長という点を除けば、扇雪みゆきにそっくりな見た目をしている。端から見れば姉妹に見えるだろう。


「“ネロ”か...。」

「ん?どちら様でありますか?」

「そうか、お前が知るはずもないもんな。こいつは“魔女”の一人“ネロ”。上海での一件で不本意だが仲間だったやつだ。」


「そうよ。私は“魔女”の一人“ネロ”。それとも、こっちの名称の方がわかりやすいかしら?


―“呪禍の魔女アナテマ”―」

 

「―っ!?」


 刀に手をかけた但馬守たじまのかみを制止する扇雪みゆき


扇雪みゆき殿。何故?」

「やめとけ。こんな場所で戦えば勝ち目はない。」

「しかし..。」


「あらあら随分、嫌われているみたいね。」

「“魔女”の名はそれだけ重いってことだろう。」

「少なくとも、私は何もしてないんだけど。」

「いや、ができるのにも関わらず何処にも所属してない地点で無理があるだろう。」

「あら、それだったら、貴女の方だって。」

「オレは一応、上帝家に所属していることになっているからな。」

「ふ~ん。御井みい家ではなくて?」

「あぁん?喧嘩売ってのんか?」

「あら?勝てるのかしら?」


 扇雪みゆきの周囲の気温が一気に下がる。それを見て、“黒”《ネロ》はため息をつくと指をパチンと鳴らす。


「でも、今はそんなことしてる暇はないの。」

「そんなこと言っておきながら仮想領域を展開してるじゃねーか。」

「人払いよ。他意は無いわ。」

「そうか...。」

「まあ、さっさと話を始めるわ。気づく奴らも出てくるかもしれないから。」


 “ネロ”の右手にはいつの間にかシャンパングラスが握られてた。


「さっきの情報屋を語っていた少女は倉橋くらはし久遠くおん。貴女達が探している“六合りくごう”の保有者よ。」



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