第3話 最悪の事実

「まぁ、君達のことはよくわかったよ。今度はこっちが紹介する番だね。私は神月かつき彩音あやね。こっちのめちゃくちゃ足が速い人が佐倉さくらひかり。そして、魔眼を使っていたのが皐月さつき玄翔くろと。よろしく」


 そ言って彩音は手を差し出す。真耶はその手を掴んで握手をした。その後モルドレッドも握手をする。すると、光も手を出してきた。同じように握手をする。


「それより、玄翔は治るのかい?」


「あぁ、少し悪夢を見てもらってるだけだからな。直ぐに起きるさ」


 真耶がそう言うと光はほっとしたのか緊張がとける。真耶はそれを見て少しだけ微笑んだ。


 そんな様子を見ていたモルドレッドが横から小さな声で言ってくる。


「ねぇ、どうするの?私達ってこの世界からしてみたら異物だよね?やっぱり帰るべきなの?」


「当たり前だろ」


 真耶の言葉を聞きモルドレッドはガッカリする。しかし、仕方の無いことだ。真耶達にだってやるべきことがある。それに、彩音達にだってやるべきことがある。


「すまんな。俺らはもう帰るよ。ここにいても悪いしな」


「そうなのか……それは残念だなぁ。もっとその力を解明したかったんだけどね。……あ、そう言えばなんだけどさ、君達が現れた時にあと2つ光の柱が立ったんだけど、何かわかるかい?」


「っ!?」


 その言葉を聞いた瞬間、真耶は凍りついたかのように動かなくなった。そして、目を見開き気を荒くする。


「あ、何か悪いことを言った?」


「いや、何でもない。その光の柱について詳しく教えてくれ」


「うーん……1つは真っ黄色で、もう1つは赤黒かったよ」


「……最悪だ……」


 彩音の話を聞いて真耶は小さく一言そう呟いた。そして、すぐにモルドレッドを睨む。モルドレッドは責任逃れするように目を逸らした。


「ちょっと待ってくれ。一体何があったんだ?」


「……元々時空間移動をすることはあまり良くない。世界に歪みが出来るからな。だから、それを排除しようとする力が生まれる」


「排除しようとする力?」


「そうだ。その力は強大な力を持つ。なんせ、神界と地獄の使者だからな。まさか奏と戦う前に神々のヤツらと戦わないといけないとは……しかも、悪魔とまで」


「そんなに強いのか?」


「……相手によるな。神界も地獄も現世と変わらんからな」


 真耶はそう言って少しだけ考える素振りを見せる。それを見てモルドレッドはコソコソと部屋を出ていこうとする。


 真耶はそれを見逃さなかった。逃がさないように襟首を掴み引き寄せる。


「おい、お前のせいだぞ」


「でも魔力を流したのは真耶じゃん!」


「そうさせたのはお前だろ」


「ぐっ……」


 モルドレッドは正論を言われ口ごもってしまう。そして、ぷいっとそっぽを向いた。


(あぶねぇ!悪いの俺だけどモルドレッドが馬鹿でよかった!ラッキーだな!)


 真耶は頭の中でそう考えめちゃくちゃ喜ぶと、その気持ちを悟られないように真顔を作り周りを見渡す。


「すまんな、この椅子を借りていいか?」


「あ、あぁ。構わんよ」


「助かるよ。モルドレッド、俺の膝の上に来い」


「ふぇ!?」


「来い」


 真耶は少し低い声でそう言う。モルドレッドはその言葉の圧力に負け泣きながら真耶の膝の上に乗る。


「いや、そういうことじゃねぇよ。お前、今悪いことしてお仕置されるっていう自覚ある?」


 その問いに首を横に振る。それを見て真耶は呆れてしまった。どうやらこれ以上やっても仕方がなさそうなので真耶は諦めてこれからどうするかについて考えることにした。


「さて、どうしたもんかね」


「帰れないのか?こっちの世界に来れたなら帰れるんじゃないのか?」


 光がそう聞いてくる。しかし、帰れないのだ。恐らくこの世界に神々と悪魔が降臨した時点で異世界を行き来する道を閉ざされているはずだ。


「多分無理だな。まぁ、開けてみれば分かるが、完全に閉ざされている」


 そう言ってゲートを開く。しかし、黒塗りで中には入れそうではない。


「な、閉ざされてるだろ」


「帰るにはどうすれば良いんだ?」


「閉ざしてる神と悪魔を殺……倒せばいい」


「おい待て!今殺すって言ったよな!お前、人を殺すのか!?」


「……」


 光はすぐに真耶の言葉に食いつく。しかし、真耶は何も言わずにただ黙るだけだ。


 その時、そんな真耶の様子を見ていたモルドレッドが言った。


「そのことは何も言わないであげて。真耶にはもう止められないの」


「止められない?どういうことだよ?人を殺すのは悪いことなんだぞ!たとえそれが人じゃなくて、殺すのは良くないことだ!」


「それだとしても!もうどうにもならないんだよ!自分の体が自分のものじゃなくなっていく……敵意を向けられるだけで敵と認識して殺そうとしてしまう……それも、妻であろうとだ……!この気持ちがお前にわかるか?先に言っておく。俺は、敵意を向けてきたものは必ず殺す。たとえそれが、お前らやモルドレッドだとしてもだ」


 真耶のその異様な雰囲気にその場の誰もが言葉を失う。モルドレッドはそんな真耶を見て少し悲しそうな顔をすると、真耶の膝の上に座った。


 そんなモルドレッドの頭を真耶は撫でながら少しだけ微笑む。その顔は少しだけ安堵しているように見えた。


「真耶……私は真耶がどんなことになってもずっと愛してるよ」


「そう言ってくれると嬉しいよ」


 そう言ってイチャイチャする。


「いや、ここでイチャイチャするのやめてくれないかな?」


 彩音は少し呆れた様子でこっちを見てきた。


「悪い悪い。まぁ、なんやかんやあって俺は敵対する人を殺さずには居られないってことだ。だから神々と悪魔は殺す。これは決定事項だ」


「そうか。でも、殺すって言ったってどうやって見つけるんだ?相手も馬鹿じゃないだろ?」


「そうだな……。まぁ、こっちに来たんだからこっちのやり方で探そうぜ」


「こっちのやり方?」


 真耶の言葉にその場の全員が首を傾げる。真耶はそんな全員を横目に辺りを見渡した。


「ん……」


 その時、玄翔が目を覚ました。


「あれ?ここは……?」


「おぉ、やっと目を覚ましたか。心配したんだぞ〜」


「そうか……済まない。我はどうやら負の波動を食らい、暗幕の中を突き進んでいたようだ」


 玄翔はそう言って周りを見渡す。


「っ!?お前達は!」


 その時、自分の視界に真耶とモルドレッドが写り、すぐに立ち上がると警戒心を高めた。そして、彩音と光の前に出る。


「2人とも!コイツから離れて!」


「あ〜、玄翔、別に警戒しなくていいぞ。この2人は敵じゃなかった」


「え?」


 彩音の言葉に玄翔は固まる。一瞬理解が追いつかなかったが何とか理解出来た。この2人は敵じゃないらしい。


「じゃあ、awaker覚醒者じゃなかったんだ」


 玄翔の呟きに彩音は頷く。


「じゃあ、この2人は一体何者なんだ?」


「う〜ん……なんかややこしいから後で話すね」


 彩音はそう言ってニコニコと笑う。


 だが、玄翔からしてみればそんなにニコニコ笑われても納得できない。2人の正体が分からない以上、敵かどうかも判断できないからだ。


 まぁ、めんどくさいなら仕方ないが……


「なぁ、お前らさ、スマホかなんか持ってない?パソコンでもいいよ。なんか、前に流行っただろ。呟いて拡散させる系のアプリ」


「あ〜、あったね。名前忘れたけど。それで捜索願いを出すのか?」


「いや、そこでアンチを書く。アイツらもこの世界に溶け込むためにやってるはずだ。だったら、アイツらにしか分からない特徴を言って、そのアンチを言いまくったら食いつくはずだ。そこで俺の正体を教えてやればすぐに目の前まで来る」


「そうか。でも、この家で戦うなよ」


「大丈夫だ。天空で戦うから。てか、フィールドはもっと大きく使おうぜ」


 真耶はそんなことを言って不敵な笑みを浮かべる。


 だが、この作戦には大きな誤算がある。それは、そのアプリのアカウントが真耶のものじゃない事だ。だから、そのアンチを言ってBANされたらこの3人のうちの誰かが終わりなのだ。


「ま、皆BANされたくないよな。ちょっと待ってろ」


 真耶はそう言って家を出ていく。そして、3分くらいで戻ってきた。その手にはスマホを持っている。


「買ったの?」


 モルドレッドが聞いた。しかし、真耶は首を横に振る。


「これ、俺のやつだぞ。そういえば転移する前に学校に預けていたから、それをこっそり貰ってきた。まだ残ってたからな」


 真耶はそう言ってスマホを開ける。中にはアニメやら何やらの画像やゲームがいっぱいある。モルドレッドは一目で真耶のものだと分かった。


「じゃあ早速やっていこうぜ」


 真耶はそう言ってアプリを開いた。しかし、開かない。


「え?」


「あ、なんか書いてあるよ。えと……設定を開いてくださいだって」


 モルドレッドはそう言う。全員は何が起こっているのか気になって真耶のスマホを覗き込んだ。


 真耶は設定を開いてすぐに気がついた。


「……ソフトウェアアップデートしてねぇわ……」


 その時、その場に一瞬の静寂が訪れた。

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