第6話 帰還

 静けさが、辺りを支配していた。

 頭上から照らし出される光が、藤堂と雪代をスポットライトのように照らしている。

 二人の放った渾身の一撃は、天井を吹き飛ばして、雲すら突き抜けていた。この世界にも大気圏というものがあるのなら、それすらも貫いたかもしれない。

「よし。終わった」

 藤堂が軽い口調で言った。それと同時に、その場にいた全員から歓声が上がった。

 支配人が拡声器を持ったまま叫んだ。

「うわぁーーーーーーー! まままま魔神ディアドレイを倒したぁーーーーーーーーーー! 最強最悪! 滅びを撒く天災! 神々ですら敬遠する悪鬼羅刹! 嘘だろ! マジかよ! マジであり得ねーんですけど! なんなんそれ! マジでなんなん! 意味わからん! 何その強さ! 魔神がなーんもできんかったんだけど! え? いいのこれ? 世紀の大決戦のはずだよね? こんな簡単に終わっていいのか? いや、良いんだけど! でも、もうちょっと激戦を繰り広げるとかあっても良くないか? いや、でもそれだったら俺たちは死んでたかもしれんからなくて良かったんだけど、いや、それにしたって! あーもう! 自分でも何言ってんのかわかんねぇ!」

「うるさい。落ち着け」

 フレアルドが支配人を睨みつけた。

「は、はい、大変失礼しました。取り乱しました」

「あの支配人のおっさんおもしろいなぁ」

 藤堂は慌てふためく支配人を見て笑った。

 フレアルドはため息をついて、藤堂たち、そしてクラスメイトを見渡した。

「支配人が興奮するのも仕方があるまい。わたしとて、他の貴族たちの手前冷静を装っているが、叫びたいのをぐっと我慢しておるのだ。お主らを召喚して、たった2時間程であの魔神を倒したのだからな。夢か幻としか思えぬ。……夢、幻ではないよな?」

 今の出来事が余りに現実離れし過ぎているらしい。フレアルドは、不安そうに聞いてきた。

「魔神を倒したら帰れるって話だから、俺たちが帰れたら魔神は倒されたってことだろ?」

「う、うむ。そなたらの契約紋はどうなっておる?」

 藤堂は肩に刻まれた紋章を見た。紋が光を帯びて点滅している。

「どうやら、本当に倒したようだな。この世界を救ってくれて感謝する」

 フレアルドは左手の掌に右の拳を当てて、頭を下げた。武闘家がする礼のようだった。

 それに習って他の貴族たちも同じようにする。

「うわ! 身体が!」

「す、透けてる?」

 クラスメイトたちから困惑の声。

「どうやらお別れのようだな。さらばだ。英雄とその仲間たちよ」

 フレアルドの言葉に、藤堂は爽やかな笑顔で答えた。

「ゲームみたいで楽しかったよ。な、雪代」

 隣を見て彼女に同意を求める。雪代は顎に手を添えて、何か難しい顔をしていた。

「どうした?」

「……なーんか忘れてるような気が」

「気のせいだろ。それじゃ、帰ろうぜ」

「うん」雪代は周囲を見渡し、「……やっぱり気になるし、念の為、一応『神物創造』でコレ作っておこ」

 何やら言っていたが、藤堂としてはどうでも良かった。早く帰りたかった。

 それぞれの身体に刻まれた紋様が一際強く光を放ち、藤堂たちはその光に飲み込まれた。

 そして。

 気づいた時にはグラウンドにいた。

「か、帰ってきたのか?」

「みたいだな。ここは、学校のグラウンドだろ?」

 全員が言葉を失い静かになる。

 そして、ポツリと誰かが言った。

「……ありえねー」

 それに次々と同意する一同。

「うん。ありえないよね」「ありえない」「ありえなさすぎ」「荒唐無稽」「前代未聞」

「異世界召喚とかガチャとかもそうだけど……」

 全員の視線が藤堂と雪代へと向き、

『お前らが一番ありえないわ!』

 全員のツッコミが二人に向けられた。

 雪代は未だ何やら考え込んでいた。

「……何だろ? 絶対何か忘れてる気が」

「だから気のせいだって」

 藤堂は苦笑して思った。

 これ、異世界最速攻略で、ギネスに載らないかな?

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