第19話 妖怪たちを救う方法

「母さん。妖怪が引っ越しをしなくていいってどういうことなの?」


「ふふふ。あれからめちゃくちゃ調べたのよ」


 そういえば、パソコンにかじりついていたな。

 色んな所に電話をしたりしてたし。

 

「この森はウッシッシ 株式会社コーポレーションが地主から買い取ろうとしているのよ」


 ウッシッシ 株式会社コーポレーションだって?

 学校で聞いたことがあるぞ。

 超有名な大企業だ。

 それって確か……。


「牛田のお父さんの会社だよね?」


「そうよ。牛田くんのお父さんの会社」


「ええーー!」


 意外だったな。

 まさか、牛田の父さんがこの森を買おうとしてたなんて。


「でも、まだ買い取ったわけじゃないのよ。手続きが色々とあってね」


「じゃあ、森を無くすっていうのは?」


「ふふふ。できないのよ。そんなことをしたら牛田くんのお父さんが警察に捕まっちゃうわ」


「やったーー! じゃあ、この森は大丈夫なんだね?」


「喜ぶのはまだ早いわ。この森を買おうとしてる計画は進んでいるんだからね」


「どうしたらいいの?」


「ウッシッシ 株式会社コーポレーションより高く買い取ればいいのよ」


「そうかーー!」


 って、簡単に喜んでいる場合じゃないぞ。


「こんな広い森だよ? 買い取るって……。すごい大金が必要なんだよね?」


「これが詳しい資料ね」


 うわぁ……。

 難しい漢字と数字が一杯だ。

 とても僕には読めないや。


 でも、瓢箪ネズミの長はそれを読んでうなづいていた。

 やっぱり頭がいいんだな。


「僕ん家ってそんなにお金があるわけじゃないでしょ? 土地って高いんでしょ? 100万円以上するよね?」


「もちろんよ。その何倍もするわ」


「えええ……」


 じゃあ、とても買い取るなんて無理だよぉ。


 母さんはマス目のついた用紙を広げた。

 それはスタートからゴールと書かれたマス目だった。

 こういうの見たことあるぞ。


「これ……。ラジオ体操とかでさ。皆勤賞を取ったら景品のノートがもらえるスタンプカードみたいだね」


「ふふふ。似たようなもんね」


「え?」


「私たちには大金が必要よ。でも、そんなお金の管理はとても小学生の優斗には任せられないわ。だから、私がやろうと思うの」


「なんの話?」


「私たちでお金を稼ぐのよ」


「どうやって??」


 母さんはニヤリと笑った。



「動画配信よ」



 ああ、そういえば、妖怪配信が調子がいいんだった。

 いくらかはわからないけど、配信の広告料金でそれなりの収入になってるっていってたな。


 マス目は五十個くらいあった。

 母さんはスタートから二つのマスに「済み」のスタンプを押した。


「これはそれだけお金が貯まったってことよ」


「じゃあ……。この最後のゴールって?」


「姫井ヶ森を買い取るくらいにお金が貯まったってことね」


 えーーと、あといくらあるんだ?

 一、二、三……。

 

「四十九個か……」


 まだまだ、先は長い。


『とても無理じゃよ。わしはネズミじゃが、人間のお金の感覚はわかる。この資料に書いてある金額は途方も無い大金。普通のサラリーマンが一生をかけて稼ぐような金額なんじゃ。子供の優斗に稼げるはずがないじゃろう』


 そうだよな。

 子供の僕に大人が貯めるような大金を稼げるわけがないんだ。


「どうする優斗? お母さんは優斗が決めたことについていくわ。あきらめるならそれでもいい」


「僕は……」


  毛毛丸けけまるや、妖怪のみんなと別れるなんて嫌だ。


 それだけは絶対だ。


 この気持ちは絶対なんだ。

 

 少しでもチャンスがあるのなら……。 


 迷っている暇なんて……ない!


「やりましょう長!」


『無茶じゃ!』


「妖怪と僕と母さんと! ここにいるみんなで力を合わせてこの森を買い取るんです!」


開墾工事かいこんこうじが始まれば妖怪たちの引っ越しもままならん。安全な今が引っ越しのチャンスなんじゃ。危険なことはできんぞい』


 母さんは資料を見せた。


「土地の買い取りまでは、まだ時間があります。このスタンプが全部埋まれば、なんとかなりますよ」


『ふぅむ……。しかしのぉ……。みんなを危険にさらすのはのぉ……』


 ああ、僕一人がお願いしてもダメなのか。

 そうだよな。長にはみんなを安全に生活させる責任があるんだもんな。



あちきは優斗さんの考えに賛成でありんす』



 も、 目目連もくもくれん


『優斗さんなら、きっとやってくれるでありんす。彼には強い意志を感じるでありんすよ』


 すると、みんなが声をあげた。


『オラもよぉ。優斗はたくあんをくれるからよ。協力してやってもいいべなぁ』

『へへへ。ピーナッツもっとくれるんならよ。俺っちの火吹き芸をもっと見せてやってもいいけどな』

『オラ〜〜。優斗〜〜。信じる〜〜』


 他にも、羽織ネズミ、金魚童、苔溜まりが飛び跳ねた。

 みんなが僕に賛成してくれている。

 最後は 毛毛丸けけまるだった。


『なぁ長! 優斗を信じてくれよ!! みんなでがんばってよぉ!! この森を守ろうぜ!!』


『ふぅむ……』


『長ぁああ!!』


 長は僕を見つめた。


『優斗よ。配信を続けていくのは、辛いことや、怖いことがたくさんあるだろう。途中で投げ出して逃げ出したくなる時があるかもしれない。それでも、やり遂げると約束してくれるかの?』


 妖怪たちは自分たちの生活がかかっている。

 慎重になるのは当然だ。いい加減なことは言えないぞ。

 辛くなったからやめるとか。面白くないからやめるとか。ましてや、 目目連もくもくれんに襲われた時みたいに、怖いからやめたい、だとか。

 そんなことは絶対にできない。


 これは責任のある約束なんだ。


 でも、僕はそれでもいいと思った。


 だって、友達を守りたいんだもん。



「約束します。僕は一生懸命に配信を続けます。そして、絶対にこの森を守って見せます」



 長はニッコリと笑った。




『うむ。信じよう。この勇気ある少年の言葉を』




 その瞬間、社の中に大歓声が起こった。


『やったぜ優斗!!』


  毛毛丸けけまるは僕に抱きついてペロペロと頬を舐めた。


「あはは! くすぐったい!!」


『優斗さん。あちきも協力するでありんす』


「ありがとう 目目連もくもくれん


 火吹きリスの炎ノ助、雲外鏡、逆さベッタラや、他のみんなも。

 全員が大喜びだった。


 僕は胸のホルダーにスマホをセットした。


「よぉし。配信頑張るぞぉおおお!」


 その時である。


ドドドドドドドドドドドドド…………!!


 凄まじい地響きが起こった。

 

 なんだなんだ?


 雲外鏡が森の外の様子を映し出す。

 そこにはブルドーザーやショベルカーが森の木をぎ倒しているところだった。


「なんで!? 工事はまだ先なんだよね!?」


「そうよ! こんなことあり得ないわ! 法律違反よ! 警察を呼ばなくちゃ!!」


『待つでありんす! 操縦者の顔をよく見るでありんす!!』


 それは青ざめた形相だった。

 目の下には真っ黒いクマ。

 ヨダレをダラダラと垂らして「ヒヒヒ!」と笑う。


 とても普通の状態ではない。


『妖怪に取り憑かれているでありんす!!』


 なんだって!?

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