妖怪バトル

第10話 対決! 目目連

 そこは人気のない通りだった。


 突然。

 ゴトンとなにかが目の前に落ちた。


「石?」


 妙に大きいな。

 そんな物が空から降って来たのか?


 よく見ると、それは鳥だった。


「これ……。カ、カラスだよね? 石になってるの?」


目目連もくもくれんがカラスを石に変えちまったんだよ』


 ひぃえええ……。


『ふふふ……』


 女性の笑い声が響く。

 真夏なのにコートを着て、帽子を深々と被っている。

 その体には無数の目がギョロリとうごめく。


 間違いない。


「も、 目目連もくもくれん……」


  毛毛丸けけまるはランドセルから出て臨戦大勢をとる。


『この野郎! それ以上、優斗に近づくな! みついてやるぞ!!』


『やれやれ。獅子毛魂ししもうこんの子供でありんすか。邪魔でありんすな』


  目目連もくもくれんは木の枝をボキッと折った。

 すると、その枝は瞬く間に石に変化してしまった。


「わわわわわ! 石化だぁあああ!! 触れた物を石に変えるんだ!!」


  目目連もくもくれんは石になった枝を投げた。

 まるで槍を投げて攻撃してるみたいに見える。


『んな攻撃がオイラに効くかよ!』


  毛毛丸けけまるは石の枝を避けて 目目連もくもくれんの腕に噛みついた。


『ガブゥウウ!!』


 おお!

 すごい攻撃だ!

 で、でも、大丈夫かな?


毛毛丸けけまるも石に変えられちゃうんじゃないの!?」


『安心しろ! 同じ妖怪は石にできねぇ! こいつが石にできるのは妖怪以外の存在なんだ!』


 ああ!

 それなら 毛毛丸けけまるは攻撃が可能だ!


『離すでありんす! この獅子毛魂の小僧が!!』


『へへへ。オイラが噛みついたら離さねぇぞ』


『くっ!』


 やったぁ!

  毛毛丸けけまるが強い!

 圧勝だ!


 と思ったのも束の間。


  目目連もくもくれんは自分のコートを脱いで 毛毛丸けけまるに被せた。


『石にするでありんす!』


 コートはたちまち石化した。


ズン!


 重くなったコートは 毛毛丸けけまるにのし掛かる。

 そのまま地面に落ちて 毛毛丸けけまるを動けなくした。


『ぐぉ! お、重てぇえ……』


『ほほほ! そこでじっとしてるでありんすよ』


  目目連もくもくれんは僕のことをギロリと睨んだ。


「ひぃいいいいいいいいい!!」


 こ、怖いぃいいいいいいいい!!


 に、逃げたい。

 で、でも、 毛毛丸けけまるが捕まっちゃった。


 か、か、体が動かないぞ。


 で、でも、 毛毛丸けけまるの石を退けてやらないと……。


『優斗ぉおお! 逃げろぉおお!!』


 と、と、友達を置いて逃げれるもんか!


「い、い、い、今、た、た、たす、助ける!」


『こいつの目的はおまえを石にすることなんだよぉおお!!』


 だ、だからって、


「け、け、 毛毛丸けけまるを置いて、に、逃げるなんて嫌だ」


 ぼ、僕だって戦うぞ。

 で、でも、喧嘩なんてしたことないし、運動神経はめちゃくちゃ悪いんだ……。

 それに、体がブルブル震えてまるっきりいうことをきかないぞ。

 こ、怖くて動けない。


『ほほほ。姫井ヶ森でうろつく子供はねぇ。あちきが石にして、その魂を食べてやるでありんすよぉお』


  目目連もくもくれんは僕を見てニヤリと笑った。

 全身についた無数の目も僕のことを見つめている。


「ああああああ……」


 怖い、怖すぎる……。

 助けを呼ぶ声さえ出ない……。


 そんな時だった。


『父ちゃーーん! 父ちゃーーーーん!! 助けてくれぇええええ!!』


 そうか、 毛毛丸けけまるのお父さんなら体が大きいからな。

  目目連もくもくれんはぺちゃんこにできるぞ!


『くっ!』


  目目連もくもくれんは悔しそうな顔をすると、 毛毛丸けけまるの上に乗せていたコートを手で掴んだ。

 一瞬にして石から普通のコートへと変わる。


『次は石にしてやるでありんす!』


 そう言って去って行った。


 僕は 毛毛丸けけまるに抱きついた。


「うわぁあああん!  毛毛丸けけまるぅう!」


『ははは。優斗。怪我はないか?』


「僕より 毛毛丸けけまるだよぉ! 体は大丈夫なの? 痛いところはない?」


『ああ。オイラは大丈夫だ』


 ああ、良かった。

 大きな怪我はないみたいだ。

 それにしても、


「お父さんを呼ぶなんて機転が利いたね」


『へへへ。まぁな。優斗が 目目連もくもくれんと初めて会った時にさ。『ししもうこん、か』って言って逃げてったんだろ?』


「うん」


『それを思い出してよ。もしかして、オイラじゃなくて父ちゃんを怖がってるのかと思ったんだよ』


「ああ、なるほど」


 事実、その効果はあったよね。


『でもさ。父ちゃんって足が遅いだろ? 呼んだところでよ。ここに来るのには半日以上はかかるかもしんねぇんだ。ははは』


「じゃあ、ピンチはピンチだったね」


『だな。嘘をついて逃げ切ってやったぜ』


「ははは……」


 あうう……。

 で、でも次は通用しないかもしれない。


目目連もくもくれんがこんな街中にまでやってくるなんて……。どうして僕に目をつけたんだろう。そんなに僕を石にしたいのかな?」


『あいつ……。森に近づく子供は石にするって言ってたな』


「じゃあ、僕がネズミ神社に行ったからかな?」


『ああ、そういうことだろうな。優斗が森に行くことをよく思ってないようだぜ』


「えええええええ」


 そんなぁあ〜〜。



 僕たちは家に帰った。

 とても、このまま姫井ヶ森に行く気になれない。


 ベッドの中でブルブルと震える。

 

 うう……。

  目目連もくもくれんのあの目。

 ギョロリって僕をにらんでいた……。


「こ、怖い……。うう……」


 僕がブルブルと震えていると、そんな布団の中に 毛毛丸けけまるが入って来た。


ゴソゴソ。


『へへへ。邪魔するぜ』


「うう……。 毛毛丸けけまる。ごめんね。助けることができなかったよ」


『ははは。気にすんなって。それより逃げなかったのはどうしてなんだよ。石にされちまうかもしんねぇのによ』


「に、逃げれるわけないだろ……うう……」

 

  毛毛丸けけまるを置いて逃げるなんてできないよ。


『へへへ。怖がりのくせにしょうがねぇ奴だなぁ』


 そう言ってペロペロと僕の頬を舐めた。


「あううう……。 毛毛丸けけまるぅ。僕、怖いよぉお」


『大丈夫だって。オイラがついてるから安心しろよ』


 ううう……。

 さっきはなんとかギリギリ助かったけどさ。

 次はわからないよね。

 ああ、どうしたらいいんだぁ?

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