第3話 淡い過去と甘い認識

力作だね!

知り合いの女の子。両親以外に実は自分から身体の秘密を打ち明けた子。ちゃっかり昔好きだった子は形の良いクッキーを眺めて言う。

「ぼくみたいでしょう?」

まるで男女混ざってしまって。

「個性があっていいんじゃない?よくある柄だけど」

よくある柄。

そうなのかな。うずまきと、四角の組み合わせ。

意外と型にハマっているのかもしれない。

「小さい頃、ぼく、きみのこと好きだったよ」

ロマンチックになるように目を見て微笑んで、頬杖までついて告白する。

だけど昔好きだった女の子は「でもまだどっちなんだかわかんないんでしょ?見た目は男の人なのに!」とクッキーをサクサク食べ出した。焼きたてだからだ。市販の粉のミックスだとだんだん固くなるようだったきがする。

サクサクのうちに食べてくれ。

「あ、忘れてた!いただきます!」

今更いうところも和むなあ。

うん。やっぱり女の子はかわいい。

自分は男で合っているのかもしれない。

いや、

「ぼくには、合格とか正解とか無いから全部僕自身に丸投げなんだよなあ」

「クッキーは合格だし、模様も大正解なのにね」

一拍置いて

「作り手が完璧なら、できるものも完璧!とはいえないけれど。誇りなよ。いま、あなた、生きてる」

「こんな身体でも?」

両手を広げて見せて内部を恥ずかしく晒すようにする。

「お母さんはむすめ!お父さんはむすこ!今の所父が有利!どうすればいい」

女の子が明らかな戸惑いを見せて。

「選ばなくていいよ。決めなくてもまだ時間あるよ。時間が迫っても心が伴わないことには意味がなくなって壊れていくよ。踏ん張って!クッキーが作れるなら、ホットケーキも作れる」

何が言いたいかっていうと、

「じぶんのことは、じぶんできめろ」

それしか言えない。

昔好きだったからって、果たしてその頃の自分は男の子だったのか。今のこの愛おしい気持ちは慈愛なのか。さっぱりだ。さっぱりわからない。

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