おっさんと酒を飲む


 

日が沈み出した頃、俺は街を一人でトボトボと歩いていた。

 

「疲れた…………」

 

疲れたというのは、身体的な面ではなく精神的な面の方だ。……そうなった理由は色々とあるんだが、その中で特に大きな理由がある。

 

リリスの距離が近すぎる…………

 

何を今更と思うかもしれないが、俺の前世は彼女いない歴=年齢だ。そもそも俺は女性とあまり巡り会えなかったし、あったとしても関わりは人並みぐらいだ。

 

最初はリリスが魔王という立場にいる事から、ビビって手を出すなんて考えもしなかったが、慣れとは怖いもんで今では常に理性との戦いだ。

 

だけど、リリスは魔王という立場から手を出すのは非常に不味い。

 

ぶっちゃけると、リリスの提案を受けたのも報酬に釣られて、後先考えずに乗りで受けちゃっただけなんだよな…………

 

「……………」

 

俺は気持ちを吹っ切るように、はあっと短い吐息をつく。

 

「────そんな浮かない表情をしてどうした?」

 

「うお!?」

 

突然話しかけられて俺は驚きの声を上げてしまう。

 

「また会ったな?」

 

「なんだおっさんか…………」

 

俺が声をかけられた方に振り向くと、そこには頭にタオルを巻いといる活き活きとしたおっさんがまた居た。

 

「なんだとはなんだよ。」

 

「おっさんみたいな人に急に話かけられたら、誰だってビビるだろ。」

 

「ああん?失礼なガキだな?………あっ、でも前に近所の子供に泣かれたような………」

 

おっさんが急に肩を落として落ち込みはじめる。

 

「…………それで、なんでお前は浮かない顔をしていたんだ?」

 

「あーーちょっと、な。」

 

言えるわけない、魔王という名を持つ美少女によって理性が保てそうにない事なんて………

 

「なんだ女か?」

 

勘が鋭いなこのおっさん………

 

「あー、まあそうだ。」

 

それを聞くとおっさんは数秒考え込むような仕草をし、口を開く。

 

「…………溜まってるのか?」

 

何故そうなった??

 

「何故そうなった??…………まあ、実際の所そうだけど。」

 

それを聞くとおっさんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「それならちょうどいいな。………お前、俺と少しいい所に行かないか?」

 

「………少しいい所?」

 

 

 

 

 

 

▼▼

 

 

 

 

 

「ガッハハハハ!!」

 

おっさんが豪快に笑いながら、隣にいる美女と酒を飲む。そんなおっさんを横目に俺も美女と酒を飲んでいた。

 

「うわ〜お兄さん筋肉すご〜。」

 

「はは、色々と鍛えたからな。」

 

俺の胸や腕を撫でるように触ってくる美女を俺はチラリと見る。

 

やっぱり異世界は美人が多いな………

 

俺に接客している美女やおっさんに接客している美女を見ると、俺はこの世界での人たちは、前世の世界の人たちに比べて顔面偏差値が高いことを痛感する。(←失礼)

 

そしてそんな世界に転生しても顔が普通な俺とは?

                ↑

          (普通であってほしい)


「はあ〜〜〜」

 

なぜか俺は悲しい気持ちになってしまい深いため息をついてしまう。

 

「おいおい、せっかく気持ちのリフレッシュの為に連れてきたんだから、ため息なんかついてないで、もっと美女と楽しく酒を飲もうぜ〜!」

 

「でも、俺この街に来たばっかだしそんなに金も………」

 

「そんな事は気にするな。今回は俺の奢りだ、ガッハハハハ!!」

 

おっさんが酒を飲みながらまた豪華に笑う。

 

「でも、流石に気が悪いし………」

 

俺はおっさんに申し訳なさから遠慮しようとするが………

 

「いちいち細かい事を気するな!そんなんだとモテないぞ?」

 

グハッ!痛い所を突いてきやがるこのおっさん………

 

そんな撃沈した俺を無視し、おっさんは次々に酒などを頼んでいく。

 

………まあ、既にここで酒も飲んじゃてるし?

自分の持ってる金で払える程度にしようと思ったけど?

もう遠慮なんていいよな?

 

「…………おっさん、俺に言った事を後悔するなよ?」

 

「ん、どうしてだ?」

 

さっきまで無言だった俺が急に話出し、おっさんがキョトンとした顔をする。

 

「おっさんが奢りって言ったからには、酒を飲みまくって財布をからにしてやるよ!」

 

「言ったなガキ!やれるもんならやってみろ!!」

 

そしてあわよくばこの美女のお持ち帰りを………

 

そうして俺達は美女達と夜遅くまで酒に飲みくれた。

 

 

 

 

▼▼

 

 

 

 

 

「ぎもぢわるい〜〜」

 

俺は顔を青くしながら口元を手で抑える。

 

「ガキにはまだ早かったようだな?」

 

「うるせぇ〜〜!」

 

俺が腹を抱えながら歩く横で、おっさんが左腕で美女を抱きながら、夜の街をゆっくりと歩いていた。

 

「どうせなら俺も美女と歩きたかった………」

 

「ガッハハハハ!!その様子なら無理だな!!」

 

おっさんはいいよな?結局お持ち帰り出来てるし。

 

「………そういえばおっさん。」

 

「ん?なんだ?」

 

「おっさんの名前ってなんだ?」

 

「ん、言ってなかったか?」

 

「言ってない。」

 

こうして考えて見ると変な話だ。名前も知らない他人と仲良く酒を飲んでいたなんてな。

 

「言ってなかったか?ガッハハハハ!」

 

相変わらず元気だな、このおっさん………

 

「………それで名前はなんだ?」

 

「俺はオウキュウって名前だ。お前さんは?」

 

「俺の名前は────だ。」

 

「ほう、いい名前をしてるな?」

 

「だろ?」

 

もうすぐ俺はこの街を出ていくから、おっさんの……オウキュウの名前を覚えれて良かった。

 

「…………お前さんはもうこの街を出ていくのか?」

 

「ああ、多分明日には。」

 

街を出ていく理由は、今後何をしたいかとか俺はまだ何も決まってないから、とりあえず俺は一年経ったこの世界をまわってみようと思ったからだ。

 

「俺はいつでもこの街に居るから、いつでもこの街に遊びに来いよ!」

 

「分かった、またここ遊びに行くよ。…………じゃあ、俺はもう宿に戻るわ。」

 

「おう!またな!!」

 

 

 

 

 

▼▼

 

 

 

 

 

俺は今、非常に不味い事態に陥っている。

 

何が非常に不味いかというと、俺は今リリスにベッドで押し倒されている状態になっていることだ。そして更に不味い事が起こっていて、今の俺は魔力で出来た黒い鎖で縛られて身動きが取れない状態になっている。

 

「何処に……何処に行っていたんだ?」

 

リリスが俺に顔を俯かせながら聞いてくる。

 

「この街で知り合った人と………」

 

友好を深めていた。そう口から出そうとしたが、それが止まってしまう。

 

………リリスの様子がいつもと……違う?

 

理由はリリスの様子がいつもと違い、困惑して口が止まってしまったからだ。

 

俺がリリスが普段と様子が違い、困惑しているとリリスがふと口を開く。

 

「私はもうお前を失いたくはないんだ………」

 

「え?」

 

リリスの俺の腕を掴む力が強くなる。

 

「………リリス…様?」

 

リリスが顔を上げて俺と目が合う。

そんなリリスの様子は、不安や恐怖、と色々な感情が入り乱れていた。

 

「お願いだから私の側から離れないでくれ………あんな思いはもうしたくないんだ。」

 

そう言ってリリスは俺を強く抱きしめる。

 

リリスは身体を震えており、目には涙を浮かばせていた。

 

「もう……私から……離れないでくれ………頼む……」

 

そんなリリスを、俺はただ見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

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