ようこそ! 文房具女学校へ!

天竺葵

黄色たちの憂鬱

ある日の放課後SALASA組にて。黄色がため息をついた。

「あーあ……」

「どしたん黄色? 話きこか?」

冗談めかして声をかけるミルクオレンジに、黄色は呆れ顔で

「そのさあ、病み垢女子にたかるヤリモク男みたいな言い方やめてくんない?」

と答え、続けた。

「あんさー、うちらって自分らで言うのもなんだけど明るいじゃん?」

「まーね、黄色すっごい天真爛漫って感じ」

「なんかバカにされてる気がしないでもないけど……まあいいや。でもさ、クラスの中で影薄すぎん?」

黄色は、オレンジたちのグルーブを羨ましそうに見やった。

「オレンジたちのグループってさー、いかにも陽キャ集団って感じじゃん。うちら、人数も3人しかいないしなんかさー……ちょっと虚しくなるんよね」

ぼんやり空を眺めながらひとりごちる黄色の方をミルクオレンジはポンポンと叩き

「てか、あーしオレンジって名前についてるのにオレンジグループよりこっちの方が居心地いいからこっちにいるんだけど?」

と慰めるように言った。

「あの子ら、いい子達なのはわかるんだけどさ、パワー強すぎて気ぃ弱いあーしにはついていけないわ」

ミルクオレンジを半ば同情の目で見ながら

「あんたも大変ねえ。ただ明るいだけだと思ってたわ」

「パステル系は結構気ぃ弱いんよー」

そんな会話の最中、ひときわ明るいオーラを放ちながら近づいてきた生徒がいる。ネオンイエローである。

「なにあんたら辛気臭い顔してんのさ? 私らは明るいのが取り柄じゃん。はいはい元気出した出した」

黄色とミルクオレンジは目を細め、声を揃えた

「あんたの明るさは目に痛いんだよ!」

半ば叫びにも近いその声に

「わっるいわっるい。体質なんでねしょうがないんだよね。ちょっとは制服お堅めに着て肌あんまり出ないようにしてんだけどさあ」

ネオンイエローは、軽く両手を合わせごめんねのポーズを取り

「でも私らってさー、考えてみれば太陽の光みたいなもんじゃん? 明らか派手に見えなくてもちゃんと必要な存在じゃない?」

あんたは存在も派手だよ、と思いながら黄色は

「でもうちら実際使われてる? ノートやメモ書く時……」

と答えた。ネオンイエローはうっ、と言葉に詰まった。

「せいぜいアンダーラインじゃん? なんならマーカーたちの方が使われてね?」

黄色のド正論に、ネオンイエローは返す言葉がなかった。

「ま、でも……」

気を取り直したように黄色は呟いた

「うちら明るいのが取り柄だし、こんな湿っぽい話似合わんよね!」

「そーそー! フラペでも飲みいこーよ!」

「あーし新作飲みたい!」

「うちは安定のキャラメルかな! ホイップ盛り盛りで!」

「私は無脂肪ラテにしとくわー」

「何あんたダイエット中?」

「なんかさ、甘いもん飽きた」

「そんな気分の時もあるかー」

明るさを取り戻した黄色と、ミルクオレンジ、ネオンイエローは教室をあとにした。

影薄くてもいいじゃん、自分らが楽しければさ。

そんなことを話し合いながら街に出る3人は、とても輝いて見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る