ダンジョントラップに引っかかって最下層に落ちて10年。ダンジョン配信者に見つかった結果、ダンジョンの主としてバズったらしい

已己巳己

トラップ

 ――ダンジョン。

 それは、突如世界各地に現れた謎の迷宮。

 ダンジョンの中にはモンスターが跋扈しており、ダンジョン内からモンスターが湧き出たことからも世界各国の首脳陣は放置できないと確信し、内部探索のための探索隊を結成することにした。

 メンバーは、ダンジョン発生と同時に現れた『覚醒者』と呼ばれる者たちだった。

 どういう基準かは不明ではあるが、おおよそ10代前半から20代後半までの人間が覚醒し、様々な能力に目覚めた。

 分かりやすいもので言えば、身体能力の向上。

 戦いの技術もない一般素人の人間が、プロの格闘家相手に圧倒できるといえば、そのすごさが分かるだろう。

 また、魔力も体内に宿った。

 ファンタジー作品でよくある魔法を行使するための、源である。

 炎や氷など、人によって扱える属性は異なるが、それでも魔法という未知の技術に人々は大いに沸き立った。


 そんな覚醒者の1人としてこの俺……宝仙ほうせんじんも探索隊に選ばれたのだった。

 属性は土。まぁ炎や氷など、見た目の派手さから人気な属性と比べて、じみ~で不人気な属性ではあるが、鉱物なども対象になるため汎用性は抜群……だと信じたい。


「それじゃ集まったな」


 十数名ほどの覚醒者がダンジョン前で待機していると、30手前の無精ひげの男性が声を上げる。

 普段から鍛えているのか、服の上からでも筋肉が盛り上がっているのが分かる。

 俺たちが挑むのは新宿駅ダンジョン。

 ダンジョン誕生前はネットでも新宿駅は迷宮だなんだと揶揄されていたが、まさか本当のダンジョンになるとは皮肉にもほどがある。

 

「まず、ダンジョン探索隊に立候補、もしくは要請に応えてくれてありがたく思う。俺は石楠花しゃくなげ。この新宿ダンジョン探索隊のリーダーを務めさせてもらう。属性は炎だ」


 石楠花と名乗る男はそう自己紹介をする。

 その後、お互いに自己紹介をし――俺が土属性と紹介したら憐みの目で見られたが――国から支給された装備に身を包むことになる。

 ダンジョンなんてファンタジーな存在に対して、俺たちは自衛隊などが装備するようなゴリゴリの現代装備に身を包む。

 いやまぁ、ダンジョンも発生したばかりで何があるか分からないし、最新の装備というのは分かるが、なんかモヤる。

 ちなみに、武器は剣や槍などの近接武器になる。

 銃などは狭いダンジョン内ではフレンドリーファイアに巻き込まれる可能性もあるため、無しだそうだ。


「先遣隊の話では、ダンジョンに入って2、3層はそれほど強いモンスターは出ないとのことだ。仮にこれを上層と呼ぶことにするが、まずは練習がてら上層で経験を積んでもらい、そこから下層へと向かうことにする」


 いよいよ始まるのか。

 俺は、高鳴る鼓動を押さえながらごくりと息をのむ。

 探索隊は基本的に応募か要請のどちらかになる。

 覚醒者は全員探索隊に入らなければいけない、というルールなどはないがもともとファンタジーものが好きだった俺は募集された瞬間に応募した。


「ドキドキするね」


 俺が緊張していると、不意に声を掛けられ肩を跳ね上げる。


「あ、ごめんごめん。誰かに話しかけないと緊張しすぎて心臓が爆発しそうで」


 黒髪を肩で切りそろえた20歳くらいの若い女性……確か自己紹介の時に梔子くちなしと名乗っていたはずだ


「梔子さん……いや、俺も気持ちはわかりますよ。自分もめっちゃ緊張してますし」

「あはは宝仙くんも? まぁ、そりゃそっか。創作の中でしか存在しなかったものが現実になったんだもんね。戦いの方は大丈夫そう?」

「はい、一応募集の際のテストでもそれなりにいい成績を残せてたので戦えるとは思います。けど……何かの命を奪う、ってなると実際にその状況になったら躊躇するかもしれませんね」


 応募しても全く戦えないと話にならないので、テストという名目ですでにダンジョンにもぐり戦いを経験した先達との軽い戦闘テストがあったのだ。

 先ほど、梔子さんには見栄を張ったが、実は成績は中の上……ごく平凡な成績で、まぁ一応戦力にはなるかということで合格していたりする。


「宝仙くんのいうこともわかるな。けど、だからって放置しておくとダンジョンの外に出てきて、大切な人を傷つけられるかもしれないって考えると、頑張らないと」


 その後、しばらく話していると全員が準備を整えたので、俺たちはいよいよ新宿駅ダンジョンに入ることとなる。

 俺は最後尾になり、どんどんと中に入っていくのを見送ると俺も意を決して中へと入る。


「へ?」


 瞬間、目の前の人達が消える。

 いや……消えたのは俺の方だった。

 無機質なコンクリートの壁だったそこは、突如土壁に変形していた。


「み、皆さんどこへ? 石楠花さーん! 梔子さーん!」


 突然の事に戸惑いながらも、俺は周りを見渡しながら探索隊のメンバーの名前を呼ぶ。

 しかし、俺の声だけがあたりに空しく響くだけで、誰の姿もなかった。

 その後もダンジョン内を探すが誰も見つけられず、あったのは上に登るための階段と、小さな部屋がいくつかあるのみ。

 幸いにもモンスターの類はいなかったが、降りる階段が見つからなかったことで確信してしまう。


 俺は、ダンジョンのトラップにより最下層に落ちてしまったのだと。


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【TIPS】

主人公が引っかかったトラップは『リビルドポーター』

ランダムに出現する転送トラップで対象者の初期地点を階層問わず変更して移動させてしまう。

ダンジョン黎明期で手加減を知らなかったダンジョンちゃんも、いきなり最下層に飛ばすのはやり過ぎたと反省し、今は同階層のどこかにランダム転送という性能にナーフされている。


ダンジョンちゃん「てへぺろ」



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