芝犬ウィッチ

@syu_dd

第1話 失恋の女学生

 ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。

 襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。

 帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。

 それを着ているのは茶色の芝犬。

 口には星の飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。


 芝犬魔女ウィッチのメメさん。

 メメさんの仕事は困っている人を助けること。

 今日も困っている人がいないか散歩パトロールしているぞ。


 おや、河原に膝を抱えてる女学生を発見。

 俯いて目には涙を浮かべているぞ。

 これは悲しみ100%だ。


 こんな子をメメさんが放っておくはずがない。

 トテトテとメメさんが女学生に近づいていった。


「ワン」

 鳴き声を上げたせいで魔法のステッキを落としたぞ。


「グスッ」

 女学生はメメさんに気づいて、涙を拭う。

「フフ、なにキミ面白い格好しているんだね」

 女学生が手を伸ばすが、メメさんに触れる前に止まる。


 メメさんはとんがり帽子にマントを着ている。

 撫でれる箇所が少ないのだ。

 普段犬と触れ合っていない人にはメメさんを撫でるのは難易度が高い。


 しかしメメさんはそんじょそこらの犬とは違う。なんたって芝犬魔女ウィッチなのだ。

 すっと顎を突き出し撫でを要求する。芝犬魔女ウィッチにしか出来ない高等テクだ。


 女学生は迷わず顎先から頬のあたりまでを撫でる。

 これにはメメさんもご満悦だ。

 しかしモフモフを満喫しても女学生の顔色は晴れない。


 女学生の横にメメさんはちょこんと座る。

「慰めてくれるの?優しいね君は。少し話聞いてもらおうかな」

 女学生は少し微笑み、メメさんは地面に伏せる。


 女学生はとんがり帽子とマントの合間を縫って、メメさんの首筋を撫でながら語り出す。

「実はね私、好きな人に振られちゃったんだ」

 とんがり帽子の中でメメさんの耳がピクピクする。


「その人はね、幼馴染の友達のお兄ちゃんなの。私はタカ君って呼んでるんだけど。小さい頃から家に遊びに行ったり、お泊まりとかもしてたから私とも仲良くしてくれて。すごく優しい人でね。

 最初はそんなに意識してなかったんだよなー。たまにタカ君も一緒に遊んだりしてたくらいだったし。私も小さかったしね。

 でも同年代の男の子って子どもぽくて。タカ君は色々気を使ってくれたりして大人っぽく見えて……それで好きになっていったんだ」

 メメさんは伏せた状態でずっと話を聞いていた。

 そんなメメさんの首筋を女学生は撫でている。


「タカ君にね。。。彼女が出来たんだ……当然だよね。あんなに優しくて良い人いないもん……

 最初に振られたって言ったけど、実は振られてすらないんだよ……

 告白していたら何か変わったかな……」


 メメさんはスッと伏せからお座りに移行して「ワン」と一鳴きする。

「フフ、君慰めてくれるの?」

 女学生はメメさんの顎を撫でる。


 メメさんは地面に落ちているステッキを鼻先で女学生の方に寄せる。

 そのステッキは魔法のステッキ。なんでも願いを叶えてくれる。

 女学生はステッキを拾う。

「なにこれ?魔法でも使えるようになるのかな?」

「ワン」

「フフ、本当に?」

「ワン」

「じゃあ、試して見ようかな」

 メメさんは女学生を見つめる。


「タカ君、彼女さんとお幸せに」

 そう言ってステッキを一振りする。

「なんてね。

 はい、これ返すよ」

 女学生はメメさんにステッキを差し出す。

 メメさんはステッキを咥えてその場から駆け出す。

「あれ、行っちゃうの。つれないなぁ」

 女学生は少し微笑みつぶやく。


 メメさんは首だけ振り向き、ステッキを一振りする。

 そこにはどんな願いが込められたのか。それはメメさんにしか分からない。


 ツバの広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口には星飾りの魔法のステッキ。

 芝犬魔女ウィッチのメメさんは今日も一人の悲しみを拭ったぞ。

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