Who am I?

Slick

第1話

『――フ〜キハラ! フキハラ!』


校舎裏に、子供たちの甲高い笑い声が響く。囃し立てる声が繰り返すのは『吹原』の苗字。

今でも思い出す、子供特有の残酷なコール。

『フキハラ レン』、それは俺の名前だった。でも望んだ名前ではなかった。四方から浴びせ掛けられるあの声が、心の内奥に深く響き渡る。


『アハハ!』

『ドウセ、ナニイッテルカナンテ、ワカンナイヨ!』


そのフレーズだけは、今でも頭にこびりついていた。


『ネェ、キイテルー?』


小学校の頃、俺は――。



□ □ □ □



キーンコーン、カーンコーン!

高校校舎に響くチャイムで、今日も一日が始まる。


「起立、気を付け、礼!」


おはようございます!

ガチャガチャと鳴る机椅子の喧騒に紛れながら、俺は未だに口慣れしない朝の挨拶を呟いた。開け放たれた窓に翻るカーテンを透かして、初夏の朝日が目に眩しい。高校一年生の教室は、今朝もいつも通り騒がしくて。

まるで楽しいお祭りから、一人だけ除け者にされたような。そんな嫌というほど感じ慣れた気分が湧き上がった時――。


「――それと、吹原? どこだったかな、吹原の席は?」


朝礼が終わる直前に、担任が俺の名を呼んだ。


「っあ、はい!」


慌てて手を挙げる。名前を呼ばれると、反射的に身構えてしまうのは昔からの癖だった。


「吹原、渡すものがあるから、朝礼が終わったら来い。――じゃあ、今朝は以上だ。終わろう号令!」


起立、気を付け、礼! ありがとうございました!

再び騒がしくなるクラスメート達を搔き分けつつ、ある意味彼らから離れるように俺は教卓へと向かった。


「おう吹原。お前宛てにコレが」


担任は一言そう告げると、無造作に一枚の紙切れを俺に差し出したのである。


「……何ですか、これ?」


英字が踊る謎の紙片に、俺はさっと目を通す。


「えっ」


そして思わず、声が漏れた。


「まぁ見ての通りだな。英語ディベート部からお前宛に、勧誘状が来てるぞ?」

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