第4話 さすらいの傭兵ライフ

 この一か月の間、私たちは下働きで信用をためながらどこへ行こうかと情報を集めていた。

 海のある方もいい。海の幸。海の魔物被害もあるから傭兵の出番も多い。

 草原のほうもいい。牧畜が盛んだし、そういうところは魔物のちょっかいも多そう。専属の傭兵もいるだろうけど、範囲が広い分仕事がないではないだろう。

 森や湖、どこでも自然豊かなところか魔物の危険があり、私たちにぴったりだ。


 まあ傭兵は何でも屋と言われるほど仕事の種類は多い。選ばなければなんとでもなるだろう。というわけで気になるところからとにかく行ってみることにした。

 護衛を受けられるようになったので、キャラバンを組んであちこちの村を回って海まで行く大きな行商の護衛につくことができた。複数の傭兵が雇われるのもあって、初めての護衛の私たちもすんなり雇ってくれた。実力があっても、護衛となるとまた勝手も違うから助かる。道中の食費などは持ってくれるので、金銭的にも助かるところだ。


 下働きの給金は安い。マリオンのおかげで効率よくこなすことができたけれど、そうでなければ朝から晩まで働いてようやく一日の生活費といったところだ。ゆっくり起きて早めに帰ってのんびり下働きの生活でも休日をもうけてゆったりできたのはマリオンのおかげだ。もう足を向けてねられない。向けたことないけど。

 とにかく、護衛中はお金の心配もいらない。


「かんぱーい」

「かんぱい」


 明日この街をたつ。ということで記念にちょっといいご飯をたべる。もう王都にくることはないからね、最後くらいお高い食事でもいいでしょ。

 コースで出てくる個室のお店、と言うことでマナーは気にせず美味しいお食事をいただく。なんかわからんけどうまい!


「……なんか、変わってるね。全部一気に持ってきてくれた方が好きに食べられるのに」

「なんでだろね。出来立てにこだわってるとか?」


 一気にお皿並べられても狭いしとか、マナー的にとかあるかもだけど、確かに言われてみれば高いお金払って好きに食べさせてもらえないのまあまあ意味わからんな。サラダとか置いといて口直しに食べたいし。

 と、ちょっと首をかしげつつも美味しい食事を楽しんだ。


 そして翌日。私たちは早朝から宿を後にした。


「おはようございます。今日からよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 とキャラバンのまとめ役、大きな商家の若旦那に挨拶する。頼りなさそうな若旦那だけど他の常連の護衛である傭兵の先輩と顔通しもしてくれたし、実になれた対応だった。

 全部で10もの馬車が連なり、4つの商店が一緒に旅をしている。前後左右にそれぞれ傭兵が囲い、徒歩で進む。先頭の馬車の上には見張りが乗り警戒もしているそうだ。

 私たちは前方にベテラングループの一人と一緒につけさせてもらうことになった。馬車はどれも一頭立てで一つ一つはそれほど大きなものではなく、速度もゆっくりだ。普通に歩くのと同じ程度。途中何度も野宿もあるそうで、売り物以外の移動するためだけの荷物だけで一つの馬車はいっぱいになっているらしい。商人が15人、傭兵が5人のベテランチームと新人私たち、何回か受けている4人の中堅チームの11人だ。26人と馬10頭での大移動。

 周りを警戒しつつとはいえ、朝から丸一日歩き通しだ。馬に合わせて休憩するとは言え、休憩中も警戒は解けない。なのでほどほどに気をはりつつ歩き続ける必要がある。


 と教えられたけど、私たちはそういうのは慣れていた。街道は比較的魔物が出にくいし、魔物のテリトリーの中に踏み入っていくことを考えると余裕があるくらいだった。


「ん。魔物、二足歩行の、ゴブリン?」

「おっ。来たか。すみません。ゴブリンが左の森奥、50メートル先からこっちを気にしてるみたいです。五匹なので様子を見に来たのか、たまたまいたのか微妙ですね」


 マリオンがハンドサインで手早く教えてくれたので、それをベテランでありリーダー役になっているドランさんに伝える。以前ならともかく、今の私は下っ端だ。決める権限はなにもない。


「なに? どうしてそれがわかる?」

「マリオンの魔法です」


 音波のように魔力を定期的に放出し、それにあたる反応で地形や動く生き物を知ることができる。普通の探知魔法は集中して時間をかけないといけない。なので簡易的で移動しながらでも気軽にできそうな、ということでマリオンと相談して作ってもらった感知魔法だ。私は口を出しただけでポンポン新しい魔法をつくっちゃうマリオン天才すぎるね。


「疑うならいったん止まってもらったらすぐやってきますけど」


 賢い可愛い。と頭を撫でて褒めながらどうするのか再度問いかける。五匹くらいなら傭兵をしている人間にとっては大したことないものだ。ただもしそれがもっと大きな群れからの偵察部隊なら話が変わるかもしれない。

 前なら皆殺しにするのが目的だったけど今は無事に目的地に着くのが一番の目的だ。考え方も違うだろう。


「……いや、このまま行こう。五匹程度なら襲ってきてからでもいいだろう」


 えぇ。判断雑。せっかく先手を取れるのに。と思うけれど、状況が異なるのだから一律に判断することはできないだろう。信頼もあるしね。

 というわけでそのまま進むと、20メートルくらい近づいてきて、無視するのも気持ち悪くなっていて落ち着かないマリオンの頭を撫でて、ちょっとだけと断って一瞬で近寄って頭を殴り倒して戻ってきた。

 現在持っている武器は刃渡り30センチくらいの頑丈さに重きをおいた切れ味はあまりよくない鉄の棒に近い剣だ。すぱっと切れないのでそれぞれ頭が陥没する程度に殴ったほうが、血で汚れないからいいのだ。


「お待たせしましたー。さっきのゴブリン殺しておいたので」

「ん? おう。そうか」


 なんかめっちゃスルーされた。これ信じてないな。まあいいけど。


 そんな感じで数日過ごし、小さな村々を回っていく。村の半分が畑をしている村が多く、このあたりはどこもそんな感じらしい。畑を守るように村は畑が中にあり、どこもしっかりした柵で囲われていて出入りができないようにされていた。

 最初の頃のように少し離れたところには魔物が姿をみせたが、向こうから積極的に襲ってくる様子はなかった。どうやらこの辺りはそんなものらしい。森などの自然がある範囲もそれほど巨大なものではなく、魔物たちが人間に対して襲い掛かるほど大規模なコミュニティをつくったり強大な魔物が生まれる余地自体があまりないらしい。

 なんとも、王都から南下するとこんなにも平和な街道が続いているとは想像していなかった。スローライフ的にはちょうどいいのだけど、まったく敵がいないというのも体がなまりそうだ。


 そんなことを思いながらも行程は中盤、国と国の国境沿いに近い山越えの最中のことだ。盗賊に襲われた。

 野宿の際、馬車を中央に置いてその周囲を囲うようにしてそれぞれが見えるよう三角形状で火をつけ、三交代で見張りをする。イメージだと火を真ん中に着けていたけど、食料や荷物を狙ってくる魔物は結構いるそうで死角をつくってはいけないとのことで、これだけ馬車があるから特殊な形の野宿だそうだ。


 私とマリオンは別の場所で離れて見張りをしていたので、ハンドサインで遊んでいたのだけど途中で盗賊がきたのだ。と言ってもマリオンの魔法ですぐにそれはわかったので、みんなを起こすまでもない。マリオンの魔法は派手だし30人程度の規模だったので私がちょいちょいと一人ずつ殺していった。

 人間の味を魔物に覚えさせるのはよくないので、これに関しては全部殺してから回収。静かに殺すため背後から一瞬で首の骨を折って殺しているので、まとめて積み重ねるとちょっと気味が悪かった。死体はさっさと燃やしてしまえばいいのだけど、さすがに夜にやると迷惑だし、どうせ私たちの番が最後なので一緒に起きていたもう一人のリーダーに確認をとって朝を待った。


 リーダーも相当に私の強さに引いていたけど、起きてきた人たちは目で見てなかったので朝起きて積まれてる死体にめちゃくちゃ引いてた。

 私も前世では平和な世界に生きていたけど、この世は弱肉強食。犯罪者は死あるのみ。と身に染みている。この世に生きる人はみんなそう、と思っていたけどさすがに薪の様につみあげると引かれてしまった。

 ちょっと納得いかない。静かに殺してみんなの安眠も守ってあげたのに。と膨れたら若旦那がお褒めの言葉と金一封を約束してくれた。顔は引きつっていたけど、さすが若旦那。


 ともあれこれで私の強さ証明にもなった。マリオンは死体処理で5分くらいで死体を焼き尽くしたのも大きかった。マリオンも人間でも魔物でも大して差を感じてないようでいつも通り処理してくれた。

 意外と死体の処理は大変で、燃やして処理が一番楽だけど火が弱いとどうしても時間がかかる。それを速攻終わらせるマリオンはすごいのだ。


 これで信用を得たのもあってちょっと魔物もちょちょっと倒して褒めてもらえたし、なんとなくいい感じで最後まで仕事ができた。


 そうして私たちは無事、隣の国へやってきてキャラバンと別れた。

 西に行くと大きな谷があり、その向こうには魔物の巣窟があるそうだが、そこでうまいこと分断されていて谷までの大きな草原にいるのは弱い魔物ばかりで、魔物の被害が少ない国だそうだ。

 東の国に行くと海に面した大きな崖があり、ちょっと自然が少ないそうだけどそれはそれで強い魔物は少ないそうだ。


 いいところかも、と思っていたけど、金策がてら二人で軽く見て回ってもあまりピンとこなかったのでまた次の国に行くことにした。

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