8

 殺された、そう思い目を瞑っていたがまだ意識はある。痛みもない。


 だがなぜだろう、足は地面についておらず風を体で感じる。


 ゆっくりと目を開けると真っ暗な世界、視線を下に向けると豆粒のようなトロールが見える。


「あっち‼」


 何かが熱を帯びたものが俺の腕をつかんでいる。そう言えばトロールが投擲する前にジャンクマンが目の前に現れたような……ってことはこの腕はジャンクマン。


 機械の腕をつたいながら視線を上に持ってゆく。そこで目にした光景は。


 ブロンズボディーの背中から青い炎を吹き出し、青い炎は書物で見た鳥の翼のように形を保って、シルファと隊長を抱え空を飛んでいた。


「と、飛んでる」


 ハノの言っていた通り、本当にジャンクマンは飛行能力を持っていたんだ。


 トロールはジャンクマンを見上げながら、ゴミを投擲するもジャンクマンの足元にも届かない。


 ギュルルと音を立て、ジャンクマンは姿勢を低く保つ。


 俺達を守るために抱えたまま、殺しに行くつもりだ。


 シルファと隊長はしっかりとジャンクマンの腕をつかむ、それをトリガーにジャンクマンはトロールめがけて風を切り降下してゆく。


 トロールも本能で無駄だと分かりながらも諦めずに投げ続ける。そのゴミを空中で無駄なく回避しながら、体制を整え足を構える。


 三体目。


 青い炎の翼でさらに加速し、ゴミを投げるのをやめ戦意喪失し、無我夢中で逃げるトロールの中心を貫いた。


 戦いが終わる。あんなに苦戦を強いられていたのにジャンクマンが起動してからはいともたやすく決着がついた。


 ジャンクマンは周りを一周確認し敵がいないことが分かると二人をがさつに手放した。


 手放されたシルファは戦いが終わった余韻に浸ることなくすぐ近くにあったランプを手に持って、急いでハノの向かった方向へと走る。


 その場にはゴミの山に倒れこむ人影があったが信じていた。生きてると信じ、急いで駆け寄る。


 だが内心分かっていた。目の前に立つまで認めたくはなかっただけ。


 その倒れている人間だった物は足は四方に曲がり腹部からの大量出血、左腕が骨と皮だけになったハノなのだから。


 シルファは膝から崩れ落ち、涙があふれ出る。


「クソ‼ クソ‼ クソ……」


 誰よりも空を求め、地上に行きたがっていたのに。


 何度も何度も両手を地面に叩きつけ、自分の無力さに怒りが収まらない。


 そんなシルファのもとに機械音を立てながらジャンクマンが歩いてくると後ろに立ち、叩きつけ出血している腕を止める。


 腕をつかまれたシルファは強い力で払いのけジャンクマンの方に体を向けると。感情に任せたまま言葉を発する。


「何が希望だ‼ こんな希望俺は求めていない‼ こんな結末が待っていると知ってたら、お前を起動させずハノを止めた‼ たとえこの街が崩壊したとしても‼」


 その言葉に対しジャンクマンは何も言わない。ただ振り払った手を真っすぐこちらに向かって手を差し伸べてくる。


「シルファ……」


 隊長がシルファの肩を優しく叩き、ハノの前でしゃがみこむとあることに気づく。


「おいシルファ‼ ハノは微かだが息をしているぞ」


 その言葉を聞き、急いでハノに駆け寄り手を顔にかざすと微かだが息をしている。


 こんなにボロボロになってまだ、地上に行くという夢を諦めずに生きようとしているのかハノ。


「でも、この街の医療じゃ……」


 諦めたくない。答えたい。親友の生きたいという気持ちに。


 その思いに何かを伝えるかのようにジャンクマンは再び手をシルファに伸ばす。


 その行為に意味を見出したシルファ、地上に行けばここより文明が発達しているかもしれなと。


 けど……。


「ここは俺に任せて行ってこい、シルファ。自信をもて自分とハノを信じろ。そして二人で帰ってこい」


 迷うシルファに、優しく言葉をかけ背中を押す隊長。


 そうだ迷うことなんてない。可能性があるのなら。ハノがまた俺と話してくれるのなら。


 見えないほどの小さな希望。だが残りの見えない希望を信じてジャンクマンの手を握る。地上を目指して。

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