第4話 これから

 そして祝賀パーティーは盛大に、実に煌びやかに華やかに開催された。

美しく飾られた美味しい宮廷料理に色とりどりの酒、ジュースなどが振る舞われていた。

 エレメンタリオ国内だけでなく、諸外国からも大勢の王族や貴族、著名人や有名人などが招かれていた。

 各国の王族貴族が、それぞれの姫や王子を連れて父に挨拶をし、僕達子供達も定文の自己紹介を繰り返していく。


「将来が楽しみですなぁ」

「利発な目だ」

「既に貫禄もありますなぁ」


 などという言葉が無数に飛んでくる。

 兄姉達はいざ知らず、世間的に死ぬ事になっている僕にとっては、苦痛と言ってもいいくらいだった。

「ごきげんよう、アース殿下」

「アース・グランシャリオ、三男にして地の使徒となるべくって……ご、ごきげんよう。えっと」

「ラピスラズリ・クルレルダイトと申しますわ」

「ラピスラズリ・クルレルダイト……」

「アース殿下、どうぞラピスとお呼び下さいませ」

「あ……はい。ラピス様」


 心ここにあらずの挨拶をしていると、僕と同年代か少し上らしき姫君が微笑んでいた。

 何人もの姫君と挨拶を交わしたが、ほぼ上の空で声も顔も覚えていない。

 けどこの子は違った。

 何が違うのかと言われたら、その正体は全くもって分からないけれど。

 何だろう? 存在感だろうか?

 僕の本能に直接訴えかけてくるような存在感と、海よりも空よりも深い濃い蒼い瞳。


「どうかしまして? 私の顔に何か付いておりますでしょうか……?」

「はっ! いっいえいえ! ただその、いえ、何でもありません。失礼致しました」


 はぁ〜なんて素敵な声なのだろうか……。

 不思議そうに首を傾げるその仕草もまた素敵可愛い。


「アースよ。言葉に急に熱が入ったようだが」

「ちっ! ちち……陛下! そんな事は!」


 横で見ていた父がそんな事を言った。

 口元が少しニヤついてる……。


「よいよい。クルレルダイトの姫君は美しさで評判だからな」

「陛下からのお言葉、もったいなく思いますわ」


 ラピスはそういって、ドレスの端をつまみ軽く礼をした。

 父はうむ、と言ってラピスの父である、クルレルダイト王との談話に戻った。

 けど、僕にとってはきっとこれが……最初で最後の出会いになるんだろう。

 僕は一抹の夢として、この出会いを胸に刻みつけることにした。

 そんな僕の思いを他所に、半日以上をかけたパーティーは幕を閉じた。

 翌日。


「アースよ」

「はい。お父上」


 僕は執務室にて、だいぶ血色の良くなった父を前にしていた。

 机の上には、大ぶりな石がはめ込まれたペンダントが置いてあった。


「アース、いやガイアスよ。これをお前に授ける」

「これは……?」

「特に名称などはないのだが……そうだな、石礫の首飾りとでも呼ぼうか」

「石礫……ですか」


 父はペンダントを手に取り、嵌っている石を見つめた。


「これには色々な魔法が込められておってな。アリエスが作った渾身の魔道具だよ」

「いいのですか? そんな貴重な物を……」

「よい。何しろこれはお前の為に作られた一点物だからな」

「お父上……いえ、陛下ありがとうございます」

「これに込められているのは、簡単に言えば認識阻害の魔法だ。これを付けている限り、お前は道端の石ころと同じような存在になる。姿を見られても会話をしても、お前は次の瞬間忘れ去られる。そしてどんな魔力探知でもひっかかる事はあるまい」

「なるほど、ゆえに石礫というわけですか」

「そうだ。お前の死は明日発表する。そこから五年間お前は誰にも認知されず、会話も無い。仮に一言二言会話をするような事があっても、お前の存在は誰の記憶に止まる事も無い」

「それは……中々に辛そうですね」


 誰からも認識されず相手にされず、記憶にも残らずに、五年間を生き抜かなければならない。

 想像しただけでゾッとする。

 けれど仕方ない。

 アース・グランシャリオは明日死ぬのだから。

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