特製ソースをかけたチキンソテーは、腹が立つくらい美味しかった

ㅤ食虫植物に捕まった虫を眺める。細く赤い粘毛に覆われ、ゆっくりと葉に包まれるソイツは、まるで大事な大事な宝物のようだ。コイツは、これから自分に起こることを理解しているのだろうか。暴れもしない姿に、諦めと安堵を感じる。これは僕の妄想だ。甘い匂いに誘われて、眠るように穏やかに。それはさぞかし甘美な誘惑で。

「食べてしまおうと思うんだ。」

ㅤいつかの甘言めいた戯言を思い出した。あいつの腹の奥でドロドロに溶かされる自分の姿を想像する。サイコロのように細かく切られ、唾液でほんの少し角が削られる。咀嚼音。ぐちゃぐちゃになって底に落ち、次第に溶けていく。それが意志を持った人間だったなんて信じられないくらいぐちゃぐちゃに、小さくなって、吸収される。僕はあいつの中でほんのちょっとの栄養になって、そしてあいつは、次の日牛のステーキなどを食べるのだろう。冗談ではない。そんなことになるくらいなら、誰にも見つからない海の底でドロドロになる方がマシだ。胸の奥がモヤモヤする。あいつは、僕をどう調理するのだろうか。鮮度が落ちないようにその日のうちに食べ切るのか、それとも小分けにして冷凍するのか。途中で飽きて、捨ててしまうかもしれない。そんなことを考えるたび、僕はたまらなく首を吊りたくなるのだ。そして、同じくらいそんな姿をあいつに見つかりたくないとも思う。それなら体に火でもつければいいのだが、あいつは灰すら掻き集めて、水に溶かして飲むだろう。そんな想像が容易なことに辟易する。僕も相当毒されている。

ㅤそんなあいつは今、鶏肉の皮をパリパリに焼こうと奮闘している。焦がしてしまえと台所を睨みつけた。

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