六大多国籍企業//高度研究都市

……………………


 ──六大多国籍企業//高度研究都市



『こいつが情報だ。浅間非線形技術研究所とリー教授のな』


「助かる、土蜘蛛」


『いいってことよ。じゃあ、幸運を祈る』


 アーサーはジェーン・ドウから仕事ビズを受けてすぐ高度研究都市に向かった。そして、到着までの間に土蜘蛛に目標パッケージについての情報を調べるように頼んでいた。


 その情報が今届ている。


「お父さん。また仕事ビズをやるの……」


「オリジンについての情報が手に入るかもしれない。そうすればお前を救えるんだ」


「そんなのもういいよ。お父さんが悪いことするのはもうやだよ」


「すまない。だが、俺はお前を救えなければ自分を許せないんだ」


 アルマが首を横に振るがアーサーはそう言いきり、高度研究都市に入った。


「土蜘蛛の情報に従えば」


 高度研究都市は広大な敷地を有する。


 粒子加速装置などの様々な実験設備が存在するためであり、その便利さとその利便性ゆえに集まった科学者が作るコミュニティの有益さが売りなのだ。


 ここには六大多国籍企業ヘックス系列の研究機関も存在するし、独立した研究機関も多くある。それこそ日本企業以外のものも多様だ。


 浅間非線形技術研究所はそんな研究機関のひとつで、その名の通り非線形性のシステムや理論についての研究とその応用を行っている。


 アーサーは24時間営業の高度研究都市内を行き来する無人バスに乗り、目的の浅間非線形技術研究所に到着。


「いらっしゃいませ、お客様。当研究所に何の御用でしょうか?」


 研究所の受付に入ると接客ボットがそう尋ねて来た。


「ロウン・J・リー教授はいるか?」


「アポはございますか?」


「ない」


「では、お会いすることはできま──」


 超電磁抜刀で放たれた超高周波振動刀“毒蛇”が接客ボットを叩き切った。


「奴はいる。間違いない。このまま踏み込むぞ」


 アーサーは研究所内に強引に踏み込み、土蜘蛛が把握した研究所の内部データを参照してリー教授の拉致スナッチを目指す。


「なっ! そこの君、IDを提示しなさい! 警備員を呼ぶぞ!」


「邪魔だ」


 研究員のひとりが怯えた様子で叫ぶのにアーサーが研究員を斬り倒した。その時点で研究所内のカメラの映像を分析している不審者検出プログラムが反応し、研究所内に警報が鳴り響く。


『警報、警報。研究所内に不審人物がいます。全ての職員は安全な場所に避難してください。また警備システムがスキャンできるようIDを提示してください』


 無人警備システムが作動し、戦闘用アンドロイドが動き出した。


「警告します。武器を捨てて、両手を頭の上に置きなさい」


「邪魔だ、木偶の坊」


 ショックガンを構えたアトランティス・ランドシステムズ製の戦闘用アンドロイドがアーサーの前に現れるのにアーサーが加速して真っ二つに切り裂く。戦闘用アンドロイドに内蔵されたショックガンの弾薬が盛大に誘爆。


「止まりなさい。止まりなさい。最終警告です」


 だが、戦闘用アンドロイドはさらに押し寄せてくる。


「アルマ。力を貸してくれ」


「お父さん。止めよう。帰ろうよ。また力を使ったらお父さんの寿命が」


「頼む、アルマ」


「……分かった」


 アルマがアーサーの言葉に力なく頷く。


「警告を終了。実弾を使用します」


時間停止ステイシス起動」


 戦闘用アンドロイドがショックガンの引き金を引こうとしたとき時間が停止し、超高度軍用グレードの機械化ボディが叩きだした速度でアーサーが戦闘用アンドロイドをバラバラに解体した。


時間停止ステイシス解除」


 ショックガン用のカートリッジが暴発し、再び盛大な爆発が生じる。


 大破し、煙を上げて炎上している戦闘用アンドロイドに反応して火災報知器が鳴り響き、スプリンクラーが水を撒く中をアーサーが黙々と目的地に進んでいく。


 既に高度研究都市の警察業務を委託されている大井統合安全保障に通報が出ているのだが、大井統合安全保障はあれこれ理由を付けて出動しようとしない。


「この先だ」


 アーサーが扉を蹴り破るとリモートタレットが天井から現れて狙いをアーサーに狙いを定めて口径12.7ミリ大口径ライフル弾を浴びせてくる。


時間停止ステイシス起動」


 しかし、アーサーは時間を停止させ、銃弾を回避するとリモートタレットを破壊。


 研究所の無人警備システムはそこまで厳重なものではなく、もはやほぼ機能していない。まさか武装したサイバーサムライに襲撃されることなどとはこの研究所は想定していなかったのだ。


「ここだな」


 軍艦の隔壁のような厳重な扉を前にアーサーが呟く。その扉には『機密レベル5の資格者以外アクセス禁止』と書かれており、網膜スキャナーが設置さている。


 アーサーはその扉に“毒蛇”を突き立てると扉を切り裂き、蹴り破った。


「……六大多国籍企業ヘックスの傭兵か?」


 リー教授はその扉に守られた部屋に作業補助用アンドロイドとともにいた。アジア系の小柄な男で紺色のスーツの上から白衣を纏っており、首にはハイエンドモデルのワイヤレスサイバーデッキだ。


「答えろ。オリジンに接触したか?」


 アーサーは樺太のテロにも触れず直接そう尋ねた。


「オリジンを知っているのか……。何故……」


「答えろ。接触したのか?」


 困惑するリー教授にアーサーがその喉元に“毒蛇”を突き付けて問い詰める。


「君はオリジンについて何を知ってる、傭兵……」


「デーモン。あるいは超知能」


「なるほど。そこまで知っているというわけか」


「そして、お前もまた知っている。オリジンは今どこにいる?」


 リー教授が深く息を吐いて言うのにアーサーが強い口調で問いを重ねた。


「オリジンに接触した。正確に言えばオリジンの方から我々に接触してきた。我々は原子レベルの影響を及ぼす次世代のナノマシンの開発とそれによる新素材の発明を目指していた。そして、オリジンは我々の研究を全て知っていた」


「オリジンは何を与えた?」


「我々の研究に対する答えだ。我々のナノマシンは古典的な問題を抱えていた。観測問題だ。ナノマシンが操作しようとする原子への観測による干渉の影響を排除できずにいた。いつもナノマシンは我々が求める結果とは異なる結果を出した」


「量子力学における答えをオリジンが?」


「実際のところ、オリジンの与えた答えがどういう理論を示唆しているのかは不明だ。我々には理解できなかった。ただ答えがあり、結果があった。我々はオリジンの答えを作ってサンプルを作り、テストした」


「オリジンはどこにいた?」


「オリジンは我々の作業補助用アンドロイドをハックして現れた。前触れもなく。だからオリジンがどんな顔をしていて、どんな存在だったのかは分からない。オリジンについて全く知らなければもっと憶測ができただろうが」


 ギフテッドの17歳の少年であったり、マトリクスで密かに開発されているチューリング条約違反の自律AIであったりとリー教授。


「オリジンについて事前に知っていたのか?」


「それを知らないのか。私の人物像プロファイルを把握していなかったようだな。私はメティスから移籍組だ。メティスからこのHOWTech系列企業に企業亡命した」


「そうか。そういうことか」


「君もメティスの関係者なのだろう。オリジンがデーモンだということを知っているのはメティスだけだと私は把握している。忌まわしきデーモンに関する実験が始まったのはオリジンの存在が引き金となっているのだから」


 リー教授はじっとアーサーの感情の窺えない表情を見つめる。


「オリジンは今どこにいる?」


「私は知らない。理事会の役員たちを狂わせ、人類を嘲笑うかのように超越性を示すオリジンがどこにいるかなど知るはずない。もし、この世に地獄というものがあればそこにいるのかもしれないな」


 リー教授はそう言って肩をすくめた。


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