第8話 久しぶりの帰宅②
それから俺たちはソフィーの家へとあがり、木製の椅子へ腰を下ろした。厨房でガサゴソとソフィーが作業をしている間にヴィルヘリアがきょろきょろと部屋の中を物珍しそうに見ている。ヴィルヘリアにとって人間の家の中と言うものは珍しいものなのだろうか?
「ヴィルヘリア、さっきからきょろきょろとしているがそんなに人間の家の中が珍しいか?」
俺は竜族語に切り替えて話をする。
「妾、人間の建物はいくつも壊してきたことはあるが、中に入ったことがなかったのじゃ。だから、色々見学しようと思っての!」
「あ、そういうね……」
建物を壊すばかり……ってそこは流石ドラゴンって感じだな。まぁ人間を襲わないって約束もしてくれてるから、今は別に警戒しなくても大丈夫か……
そうこうしているとソフィーが厨房から出てくると、お盆に2つのカップを持ってこちらにやってきた。
「久しぶりに来たんだから、ゆっくりして行ってね」
そう言ってカップを俺とヴィルヘリアの前に置いた。カップの中にはコーヒーが入っており、湯気から薫る仄かな香ばしい匂いが伝わってくる。俺はカップを手に取りその中の物を啜る。口に入れた瞬間、キリッとした刺激のある苦みと自然の優しい香りが鼻を抜けていく。
「美味しい」
思わずそう言葉にしてしまった。王宮で出されるコーヒーよりも数十倍質が良く、癖になってしまいそうな美味しさだった。
「でしょでしょ? ママとパパが仕事先のお土産だってくれたの。ヴィルヘリアちゃんにはまだ早いから牛乳ね♪」
ヴィルヘリアはソフィーの出した牛乳を見て怯えていた。
「な、なんじゃこの白いのは? レ、レイクよこの女子は妾になんてものを出しておるのだ」
「それは牛乳って言って牛のお乳を搾って取った飲み物だよ。まぁ飲んでみろ」
「ううぅ……不味かったら恨むからの」
ヴィルヘリアは恐る恐る、その牛乳を舌を使って舐めた。すると途端にヴィルヘリアの目が輝くと、腰に手を当ててまるでエールを一気飲みする宴会の兵士たちのように一気飲みをした。
「ぷぅはぁ!! ななななな何なのだこれは⁉ 美味しいではないか美味ではないか最高ではないか!!」
どうやら牛乳の味がヴィルヘリアにクリティカルヒットだったようで、お気に召されたみたいだ。
「おお! ヴィルヘリアちゃんいい飲みっぷり♪ お代わりもあるからね?」
「お代わりもあるみたいだぞ」
「うむ! 頼む!」
ヴィルヘリアに牛乳のおかわりを与えると、その牛乳にメロメロになったヴィルヘリアに取りあえず安心感を持ちながら、ソフィーと会話を始めた。何にせよ、久しぶりの幼馴染との再会なのでソフィーとの話はかなり盛り上がった。話が中盤に差し掛かった頃、ソフィーから話したくない話題を振られてしまった。
「そう言えばどうして急に帰ってこようと思ったの?」
「うっ……」
まさか、頑張って独り立ちして出て行った奴が仕事を解雇されちゃって故郷に戻って来ただなんて言えない……俺がイブニクル王国の兵士になったとき、一番喜んでくれたのも祝ってくれたのもソフィーなのだ。そんなソフィーの前で仕事を辞めたなんて言えない。
「ああ、えっと……ほら、上司が俺に最近激務だから少しは羽を伸ばせって言ってくれてね……俺も疲れてたからゆっくりしようと思って戻って来たんだ」
「へぇーー職場に優しい人が居て良かったわね♪」
本当はそんな人どころか俺を馬鹿にしてくる奴らしかいなくて本当最悪な環境だったよ。ああ、ソフィーよ嬉しそうな目で俺を見ないでくれ。職を失った俺は今、心の中で途方に暮れているんだ。
「いつまで休みなの?」
「ううぅん……まぁ……1週間?」
嘘です、永久です。
「ふーーん……」
ソフィーが少しだけ話の間を空けた。俺の方をちらちらと見ながらどこかもじもじしている感じだった。トイレでも行きたいのだろうか?
「じゃあ一週間の間、家にいたら?」
「え? 良いのか?」
「うん! 今、パパとママは仕事で遠出してるからしばらくの間は帰ってこないけど、家の事は全部私一人でできるから。お料理とか結構勉強したのよ私♪」
ソフィーは昔から家庭的で、特にソフィーの作る手料理はなかなか絶品である。あんな料理が毎日出てくるのであるならば是非、独り立ちする前のようにお言葉に甘えたい。
「そうか、じゃあ久しぶりにお世話になろうかな。あとでお父さんとお母さんにはお礼を言わないと」
と言う事で、久しぶりに幼馴染の家に泊まることになった。部屋は俺が昔使っていた個室が残っていたようなのでその部屋を使うことにした。
あれからソフィーの手料理を食べたり、お風呂に入ったりして、夜を迎えた。ヴィルヘリアもソフィーの手料理も気に入ってくれたみたいで何度もお代わりしていたことを思い出す。はたから見ればただの少女、あれが世界を破壊する破滅古竜だなんて誰が信じるだろうか。俺はそっと胸に手を当ててみる。やはり、俺の胸からは心臓の鼓動が聞こえない。今日は色々あって慌しかったが今、冷静になって考えると心臓が無いという現実はとんでもないものである。それでも、パニックにも狂気にも陥らないのが不思議なくらい気持ちは冷静を保つことができた。これも、ヴィルヘリアの眷属になったからだろうか……だめだ無色になってから色々ありすぎて疲れた。
俺はソフィーによって整えられたベッドの上で横になると疲労から瞼が徐々にふさがっていく。俺が夢の世界へと入ろうとしたとき、勢いよく扉が開かれた。俺は驚きながら扉を見るとそこにはタオルを雑に体に巻き付けたヴィルヘリアが居た。お風呂から出たばかりなのかいたるところが水でびちゃびちゃであった。
「レイク! 聞いてくれ! 風呂は良いものだな! 池の水浴びも良いがこんなにも暖かく心地が良いお湯の中に浸かるのも気持ちが良いぞ!!」
「お、おい! どうして風呂から直で来たんだお前は!!」
満面の笑みで話すほぼ裸姿のヴィルヘリアとそれを見せらたじろぐ俺。そしてさらに悪い出来事はさらに悪い方向へと進む。
「ちょっとヴィルヘリアちゃん! 体しっかり拭かなきゃダメでしょ……って」
髪と体にバスタオルを巻いたソフィーが乱入してきた。恐らく浴場から抜け出したヴィルヘリアを追ってきたのだろう。そして、部屋の中にいる俺の存在に気が付いたソフィーと目と目が合いソフィーが顔を赤くする。
「レ……レイクのスケベェエエエエエエエ!!!!」
耳まで真っ赤になったその顔でヴィルヘリアを引っ張ると全力疾走でその場を離れていく。
「え……ええぇ???」
何故俺が怒られたのか、なぜ俺が悪いような感じに立ち去ったのか、俺は訳が分からず少しの間放心状態になる。
色々なことが起こりすぎだ……疲れた……
俺は気絶するようにベッドに眠りについた。
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