望遠鏡で眺める関係

たかひろ

引きこもりとお嬢様様の奇妙な出会い

第1話 望遠鏡のその先に……視点.野崎太一(のざきたいち)

 自分で頼んでおいて何だが......重すぎだろ。暗い部屋の中、俺は玄関からリビングまでを転ばないように慎重に進んだ。というのも、夜勤している母親からもらった1か月分の生活費の内半分を、ネットで購入した望遠鏡に費やしたのだ。もやし生活を無駄にしないためにも、この箱は何としてでもベランダまで運ぶ必要がある。そう思いながら月明りの射す窓際に後一歩というところで、つるんと左足を滑らせてしまった。


「......うわっ!?」


 箱をガコンと床に叩きつけてしまい、俺もその箱の上に覆いかぶさってしまった。ったく、誰がこんなこと......あぁ、学校のレポートか。


「こんのやろう。どうしてくれようかって......なんだこれ?」


 レポートの紙の後ろに、もう一枚紙がある。えーっと、1か月以内に通学しなければ進級できないって......留年!?はぁ、流石に引きこもり生活もこれまでか。いや、今からお楽しみなのにそんなこと気にするな。うんうん、忘れよ忘れよう。来年大学受験だけど、ぜーんぶ今は忘れておこう!


 と、俺は現実逃避として組み立てた望遠鏡を椅子に腰かけて眺める。あぁ、俺って本当に手先が器用!でも疲れたからちょっと休憩がてら、お菓子でも食べますか。そういって台所からメントスとコーラを持参し、ベランダに戻った。メントスを親指の爪の上に乗せ、ビュンと弾いて......お口でキャッチ!そしてコーラをガブガブ!


「......ふがっ!?」


 や、やべ苦しい!ししし死ぬぅ!プロレスラーの毒霧張りに盛大に吹き出してしまった。どうやら、メントスコーラを無自覚で発動させてしまったようだ。買ったばかりの望遠鏡にはかからなくて一安心だが、床も服も水浸しだ。これからお楽しみだっていうのに、何してんだか。


__ピュゥゥゥ。


 冷たい夜風が、上半身を撫でるように通った。ベランダの床を拭き終えたのはいいが、半裸なため乳首と鳥肌がビンビンである。だが、この寒さすら今の俺には些細な問題だ。この望遠鏡でようやく......ようやく......セックスが見れるからな!


 この野崎太一(のざきたいち)、2年間の引きこもり生活で見飽きたエロ動画の代わりになる新たなコンテンツを発見した。そのコンテンツとは......リアルセックスだ!さぁ、この望遠鏡で俺にリアルセックスを見せてくれ!


 期待に胸を膨らませ、タワーマンションにレンズの先を合わせて覗き込んだ。ついに念願の生おっぱ......じゃねー!おっさんのパイオツには興味ねぇんだよ!おまけになんだ、おっさん磔にされて女性にムチで打たれてるじゃねぇか!いや、こんなの見るために買ったんじゃないんだ!次々!


 レンズの先を移動させると、今度はカーテンが。しかし、部屋の灯りで人影が薄っすらと見える。その人影は、すーっとブラジャーを外して床にポトンと落としていた。お、おぉ!ついに念願の......と思ったけど、カーテン越しじゃ何もわからねぇ!クソ!えぇい、次だ次!


 頼む、俺に奇跡をおくれ!そう気持ちを込めて、レンズを動かした。タワーマンションの最上階付近、俺の住むマンションとはかけ離れた家賃であることが伺える。流石に金持ち様はカーテンを閉めている……か。って、なんだなんだ???


 レンズ越しに2次元の美少女が映り込んだような。夜だというのにあまりに眩しくて、つい望遠鏡から離れてしまった。も、もう一度確認だ。意を決してそーっと覗き込むと、そこには白いレースの寝巻きを着た美少女がいた。サラサラの黒髪のロングヘアに、大きな瞳。笑っているからか、レースの隙間から見える大きな胸。でも口を手で隠していて、エッチな服装を相殺するほどの清楚っぷり。お嬢様と呼ぶのに相応しい、とても綺麗な人だ。


 でも、何にそんな笑っているのだろうか。しばらく様子を眺めていると、瞼に残った涙を拭いて、彼女は椅子に腰を下ろした。あれ、彼女の前にあるのって望遠鏡か?てか、あの望遠鏡……こっち向いてない?そう勘付いたと同時、お嬢様とレンズ越しに目を合わせてしまった。


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